DRRR!

□カゲロウデイズ
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「!!いざ…」

目覚めると、いつも通りの天井が目に入った。

「…?」

手元にあったケータイを見れば、8月14日12時過ぎくらいだった。

「…なんだ?」

ドクンドクン…
何かを必死に訴えるかのような鼓動。
おかしな夢でも見たのだろうか?
全く内容が思い出せない。

ただー

俺は窓の外に目を向ける。

ーやけに煩い蝉の声だけは、覚えていた。

ピリリリリリ♪

軽快な電子音で我に帰った。

鳴り響くケータイの画面には「折原臨也」の文字。

「もしもし?」

『もしもし?じゃないよ。今どこにいるのさ?こっちは15分も待ち惚けなんだけど。』

慌てて出れば不満気な声が返ってきた。

「え?」

訳が分からない。

『何?寝惚けてるの?もしかして今起きたとか?』

呆れ返った声。まさにその通りなので黙るしかない。

『ったく。12時に公園って言ったのシズちゃんじゃん。せっかく波江さんに仕事押し付けて出てきたのにさぁ。』

ハァとわざとらしい溜め息。
12時?公園?何の話だ?

「あ、と、わりー。すぐ行くから。」

身に覚えはなかったがとりあえず謝り電話を切った。

「…」

いつも通り。いつも通りの声だった
。いつも通りの話し方だった。
なのに。

「なんなんだよ。」

モヤモヤした何か。ハッキリしないからこそ余計にそれは異質で。
違和感。そう、ただ違和感が体の中心を渦巻いていた。

「あ、やっと来たー!」

公園に着いた瞬間、その声は斜め上からやってきた。

「…何やってんだ?」

見上げると空を泳ぐ黒。

「なにって、ブランコだよー。懐かしくてやってみたら楽しくなっちゃってさー。」

間延びした声を前後に揺らしながら臨也は呑気に言った。

「あほか。」

苦笑しながら言えば、

「それ待たせた上に言う台詞かよっ!と。」

勢い良く飛び出す黒。俺の頭上を飛び越えて

ーあれ?

突如過る一つの光景。

そう。確か、あの時も臨也は飛んでて、でも、それは黒くなくて、赤クテ、紅くテ、アカクテ…

「!!!」

思い出した。あの悪夢。臨也が…臨也が…イナクナル夢…

「…ちゃ…シ…ちゃん……シズちゃん!?」

「っ」

我に帰るとすぐ目の前に不安気な顔。

「…あ…」

「どうしたの?顔色最悪だよ?馬鹿なのに風邪でもひいたんじゃない?」

軽口を叩きながらもその表情は真剣に心配していた。

「……なぁ、もう今日は帰ら
ないか?」

「は?なんで急に?」

夢の事は口に出したくなかった。

「…ち…ちょっと気分がわるくてよ…」

苦し紛れの言い訳をしながら無理矢理腕を引っ張る。

「ちょ、なんなの?シズちゃんの家あっちのが近いじゃん。」

臨也が指差したのは横断歩道が広がる大きな出入り口。

ーあの夢の場所。

「たまには違う方から行こう!」

またしても苦し紛れ。
有無も言わせず腕を引っ張り続ける。
ー一刻も早くあの場所から引き離したくて。

「ここまで来れば…。」

道を抜け、ようやく手を離すととたんに力が抜けた。

「何いってんの?暑さで脳ミソやられたんじゃないの?」

とげとげしく言われ何だかすごく安心した。

「はは…そうかもな。」

馬鹿らしい。たかが夢に振り回されて。あんなの気のせいに決まってる。

「わり。ちょっと変だったよな。」

「ちょっとじゃないよ。かなり変だった。」

クスクスと笑いながら歩き出す臨也。

あぁなんだ、やっぱりただの夢だったんだ。
ただのー

にゃー

どこからか、猫の鳴き声が聞こえた。

辺りを見渡せば、何故か周りの人はみんな

ー上を見上げ口を開けていた。

ガシャーンッッッ


属音。
風鈴の音。
悲鳴、悲鳴、悲鳴

「きゃーっっ!!!!!!!」

「人が下敷きになったぞーっっ!!!」

「救急車!誰か救急車っ!!!」

目の前。
広がる色は今度は3色で。
黒を覆う、
銀銀銀銀銀銀銀
そこに散らばる
赤赤赤赤赤赤赤

「っっな…なん…で…」

見たくないのに。目が剃らせない。
だって、これは、夢で、夢で、夢だったはずで

「夢じゃないぞ。」

「!!!」

夢に出てきた、青い着物の俺。
夢に、夢だと思っていたあの現実で会った男。

「これは、紛れもない現実だ。」

笑う、笑う、俺と同じ顔で、優しく。

「てめ…っ」

殴りかかろうとした瞬間、グラリと世界が歪んだ。

ゆらぐ視界。
ゆらぐ意識。

臨也の横顔。

ー笑ってるような気がした。
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