Fake Moon

□2.
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「〜っ」

どうしよう…

斬撃を繰り返しながらも頭が考えてしまう。

ー勝てない…

先ほどからどの攻撃もかわされるどころか、一度も反撃をされていない。
それだけ、臨也は余裕なんだ…

負けてしまうのではないか…

違うっっ!!

浮かんだ考えを即座に否定する。

勝てる!!絶対に!!
…勝たなきゃいけないんだ…だって…私はそのためだけに……
生きてきたのだから!!

「あぁぁぁぁぁっっ!!!!」

奮い起たせるように叫び、残った僅かな体力を振り絞って飛びかかる。

ビッ

赤が飛び散った。

…え?

カランッ

乾いた音を立て、ナイフが手から落ちた。

「うーん…惜しかったねぇ。なかなか強かったけど。」

ツゥと一筋流れるほ
じーんと痺れる腕。
たった一度軽く衝撃が走っただけなのに、私の手の力は全く働かなくなっていた。

「さぁて、と。」

動かない腕を絡めとられ、壁に押し当てられる。

「っ!!離してっ!!!!」

精一杯もがいても臨也の腕はビクともしない。

「だーめ。だって離したら君俺のこと殺そうとするでしょ?」

「当然よ!!!!あなたを殺すために私は生きてきたんだから!!!」

睨み付け叫べば
臨也は興味深そうに僅かに目を見開く。

「へぇ。じゃあ君は俺に会うために生きてきたの?」

からかうように笑う。

「その通りよっ!!あなたを殺すためにね!!!」

食いかからんばかりの勢いで声を張り上げる。

「ふぅん…じゃあ、家宅侵入罪のお代はこれでいいよ。」

「へ?」

瞬間
憎み続けてきた顔が目の前にあった。

「っ!?!?」

唇に押し当てられた柔らかい感触。

「〜んっ!!…ふ」

なんで…
なんでキスされてるの!?

「や…ぁっ…」

必死に暴れようとしても腕が上で押さえられていて動けない。

「ふぁっ…」

酸素を求め口を開ければ舌が入り込んできて絡め取られる。

「んっ…んぅ〜っっ!!!」

涙で目の前が霞む。
やだ
やだ
やだやだやだっ!!!

「いやっっ!!!!」

ガリッ

鉄の味。
ようやく唇が解放されむせ返る。

「いたた…酷いなぁ。唇切れちゃったよ。」

わざとらしく顔をしかめる臨也。

「っ!!ふざけるなっ!!!!この変態っっ!!!!」

殴りかかろうとした手をあっさり受け止められる。

「変態?心外だなぁ。俺は理不尽に殺されかけたお詫びをもらっただけだよ?」

クスリと微笑
むその手はやはりビクともしない。

「はぁ!?」

「まぁ要はさ。」

腕を引かれ気付けば腕のなか。

「なっ!!」

「見てみたかったんだ。殺しにきた相手にキスされた人間がどんな顔するのかを…ね。」

耳元で囁かれた、甘い声。残酷な言葉。

「っざけ「言っとくけど。」」

有無を言わせぬ声につい言葉を止める。

「お兄さんを殺したのは俺じゃないよ。」

………え?

いま…なんて…?

「だから、君のお兄さん、月詠葵季を殺したのは俺じゃない。」

一言一句丁寧にいう臨也。

「嘘よっ!!!!」

だってあの人は確かに…

「どうやら君は騙されたみたいだねぇ。」

呑気な声で告げられる。

「そんな訳ないっ!!だってあの人は…」

いつも私に色々な情報をくれた。兄さんの親友。

『俺…応援してる。俺は月詠みたいに強くないから…でも…葵季の仇を取りたいんだっ!!俺には情報を与える事しか出来ないけど…頑張れ…月詠…』

「そんな訳ないっ!!!!いち兄さんが嘘なんてつく訳「いるのは分かってるんだけど。神威一(かむいはじめ)さん。」」

否定が終
わる前に呼ばれたフルネーム。
それは確かに兄さんの親友の…いち兄さんの名前。

「…。」

棚の影。
ゆっくりと現れたのは…

「そん…な…」

記憶の中。
優しく笑みを浮かべていたその表情は、冷たく残酷な笑みをたたえていた。

「どうして…いち兄さん…?」

声が震える。
いつも優しかった。
いつも支えてくれた。

なのに…

「はじめまして。折原臨也さん。」

冷やかな声をした、
この人はダレ?

「やぁ。そろそろ何か仕掛けてくるとは思ってたけどまさか女の子を刺客に寄越すのはねぇ。」

呆然とする私にお構い無く会話は進行していく。

私はただ見つめることしか出来なかった。
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