Fake Moon
□3.
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パンッ
鋭い銀が床に弾ける。
ちょうど
ついさっきまで私がいた場所。
「っっ 」
目を見開く私に腕の主、臨也がはじめて表情を歪める。
「ちっ..逃げられたみたいだね。」
その視線はまっすぐ窓の外、近くのビルの屋上に向けられていた。
「だれが..こんなこと...っ」
横たわるいち兄さん。
大好きな人。私はまた無くしてしまった。
「いち兄さん...」
そっと目を閉じさせる。
「ごめ...なさ...」
か細い声で言う。
震える体を押さえつけながら、視線を横にシフトする。
臨也は何を言うでもなくただこちらを見下ろしていた。
「ね
ぇ」
私はそんな彼にちいさく呟く。
「..お願いが..ある...」
今にも消えそうな声だったけど、沈黙に包まれたここでなら問題ない。
「ふぅん。この最悪の状況下で何をお願いする?保護してほしい?助けてほしい?それとも俺に死んでほしいかな?最後のお願いだったら聞けないけど。」
せせら笑うような口調はこんな状況でも全く変わらない。どうやら人の死は見慣れてるらしい。
「...ちがう...」
私はゆるゆると首を振る。
私はゆっくりとポケットに潜ませていたナイフを差し出す。
臨也が一瞬だけ目を見開く。
「殺して」
喉から出た声はあまりにも無機質で。
部屋のなかに緩く染み渡った。
「わかったの。私が復讐すべき相手。それはあなたでも、いち兄さんでもなかった。」
自嘲気味な笑顔をうかべ、
「私。私こそが復讐すべき相手だった。私の存在が、きっと二人の死を招いたのよ。」
私の大事な人達
私のそばにいた人達
私が愛した人達
みんな死んでいった
もういい
もういい
もう
見たくない
「もういや。これ以上見たくない。だから、殺して。」
私はそこで口を閉じ、臨也の答えを待った。
時計の秒針だけが、いやに
煩い時間だった。