元拍手文置き場

□エメラルド探偵社3
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夜も遅く、日を跨ごうとする頃。
表通りから一本奥に入った路地裏に飾り気は一切ない、シンプルな作りのバーがあった。
店の名前はBAR USAMI。
そこに2人組の男が前に立ち、ドアノブに手をかけ引く。
するとドアに付いた鈴がカランカランと品の良い鈴の音が鳴った。

「いらっしゃ…なんだ……」
中に入るなり聞こえてくる少し高めの男性の声。
しかしその声の主は来客を喜ぶとは程遠い迎え方をした。


いらっしゃいませ、と入ってきた客に言葉をかけようとした小野寺が入り口に顔を向けるとそこには高野と木佐が立っていた。
「おい、客に向かってなんだとはなんだ」
「客って…」
「ここの店のもんは客に注文の取り方も知らないのか?」
「…ご注文は?」
「コーヒー」
「コンビニで買ってください」
「おい。」
「まあまあ…」

高野は呆れ小野寺につっかかろうとするがそれを高野と一緒に入ってきた木佐が止めた。
高野はやれやれと言ったようにバーのカウンターに腰を掛ける。
ちょうどBARには今二人が入ってきた以外客はいなかった。
高野の前に立ち嫌な顔をする小野寺は黒シャツに黒のパンツの姿でカウンターの中にいるが決してバーテンダーではない。正真正銘の探偵である。
今この状況には少しわけがあるのだが、それは後ほど説明するとしよう。

この偉そうな態度の人は小野寺の上司である高野政宗、そしてその隣で小野寺と高野の会話を困り笑顔で見ているのは、年齢不詳童顔探偵の木佐だ。
二人とも同じエメラルド探偵社の人間である。そして小野寺もその探偵社の人間だ。
小野寺はとあることから最近高野に誘われてエメラルド探偵社に来た。
先日は小野寺担当で初めての依頼もこなした。
いろいろ初めてで戸惑うこと悩むこともあったが、高野のフォローもあったおかげで無事依頼をこなすことができたのだ。
そして今はその次の依頼のために動いている。
「ちゃんと働いているか?」
「ちゃんとやってますよ!放っておいてください」
「ほんとか?こんな態度取るようじゃお前探偵だってバレちまうぞ」
「これは高野さんにだけです!!他の人にはちゃんとやってます!!」
「嘘くせ」
「ほんとですってば!!!」

「その通り、小野寺さんはがんばってますよ」

言い合いをしている2人に不意に奥からそう言って出てきたのは、キラキラと後ろに花が見えるようなイケメンバーテンダーだ。
「仕事覚えるの早いし、何をするにも丁寧ですし、お客さんにも人気があって助かってるくらいです。このままいてもらいたいくらいですよ」
「雪名さん…」
褒められて感激している小野寺に呼ばれたそのバーテンダー、雪名はお得意のキラキラスマイルをしてカウンターへと立った。
「あんまり褒めるとこいつ調子に乗るからその辺にしていてくれ、雪名さん」
「は、はあぁ!!??あんた何言ってるんですか!」
「ほんとのことだろ?」
「そんなことありません!!大体高野さんは…」
ああ言えばこう言う。結局またいつもの小野寺と高野の言い合い、ないし痴話喧嘩が始まってしまったがそれをよそに木佐の前へと雪名がやってきた。
「はい、これいつものです」
「ああ、サンキュウ」
「まだ仕事ですか?」
「まあ、ね。しかし…二人ともよく飽きずに毎日毎日言い合いが続くよね。高野さんも律ちゃんがかわいくて仕方がないのは分かるけどさ」
「かわいい子ほどいじめたくなりますしね。」
「…そうだね。俺も律ちゃんのことはからかって遊んじゃってるし」
「木佐さんもっすか?ええ、ひっでー」

二人が入ってきたことにより賑やかになったBAR USAMI。
カウンターには雪名と小野寺、客席に高野と木佐。
そう今小野寺はバーのカウンターで働いている。しかし決してバーテンダーに転職したわけではない。今も正真正銘の探偵だ。どうしてここにいるのかというと、所謂情報を聞き出すためだ。そのために知り合いの店であるこのバーに頼んだのだ。
この店のオーナーは井坂と知り合いらしく、井坂が連絡したら一つ返事で帰ってきたらしい。
そしてそこで働いている雪名にも説明し律をバーテンダーとして傍に置いているのだった。
 

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