ケロロ3
□結婚記念日
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「ふぅ…良い香り♪」
すっかり乾いた洗濯物から漂う香りに、夏美は顔を綻ばせる。
前々からアロマ柔軟剤を使ってみたかったのだが、夫である睦実はあまり好きでないかもと遠慮していた。
しかしこの間、一緒に行った近所のスーパーで、実は睦実もアロマ関連のものは嫌いではないことが判明し、
以来この柔軟剤を使用しているのだ。
心安らぐ香りを楽しみながら、夏美は干された洗濯物を籠へと入れていく。
そして軽く風に揺れる睦実の白いYシャツを取ろうとして、手を止めた。
「もう1年か…。」
ちょうど1年前のこの日、夏美と睦実は入籍した。
結婚記念日である今日は2人で外食の約束をしている為、そろそろ睦実が帰ってくる頃だろう。
夏美も、今日は睦実にどうしても話したいことがあるから、早く帰ってきて欲しかった。
驚くであろう夫の顔を想像し、夏美はクスリと笑う。
「覚えてるかな…あの日のこと。」
夏美の言葉に応えるように、睦実のシャツがパタパタと風に踊った。
〜結婚記念日〜
「…うん、…うん、それじゃ、また連絡するね。」
「…あ、」
夏美が電話を切ったのと睦実が寝室の戸を開けたのは、ほぼ同時だった。
「ごめん、邪魔した?」
あまりのタイミングに、睦実も少し申し訳なさそうな顔をしている。
「ふふ、大丈夫。たまたま同じタイミングだっただけだから。」
「…なら良いけど。」
夏美が笑って言うと睦実も安心したらしく、
ようやく部屋へ入ってきた。
「五月がね、
『“日向夏美”さんと最後にお話したくって〜』
なんて電話してきたの。」
「へぇ、確かに…明日から名字変わるもんね。」
「えへへ、…うん♪」
睦実の言葉に、夏美は嬉しそうに頷いた。
その手には透明なファイルに入った婚姻届を持っている。
明日、6月23日に2人はそれを区役所へ提出し、晴れて夫婦となる予定だ。
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