長編

□多神星アルビア《一目惚れしたので魔族を繁栄させます》
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俺の名前は最上 瑪瑙(もがみ めのう)


いきなりなんだが…

俺は今、廃れかけの祭壇の上で痛む頭を抱えて呻いている


少し前に起きた話をしよう

いつもつるんでた仲の良い相棒と一緒に、夏祭りに出かけた夜の事だった

そのダチ…記憶が曖昧で名前や顔を思い出せないのだが、ソイツが何か声が聞こえないかと俺に聞いてきた
墓地の前だったから悪ふざけで怖がらせようとでもしているんだと思っていたんだが、ノイズの走ったような不可思議な声が、徐々に背後から近づくようにして聞こえ始めた


そこからは、あっという間だった


振り返ろうとしたら、誰かに手を引かれて何も無い空間に引きずり込まれてしまった

気づいた時には俺達以外、存在していた墓地も、近くに建っていた民家も、何もかもが消え失せていたんだ


ただただ真っ黒な世界に、ポツンと2人だけ


夢でも見ているのかと、真っ暗なのに何故か見える相棒と顔を見合わせた

『ねぇ……ねぇ……』

すると、目の前にフワッと紫色の人影のようなものが現れた
ノイズが走ったような音は無くなっていたが、先程聞こえてきた声の主なんだろうなというのは直ぐに分かった

俺と相棒は、その人とも化け物とも分からない影に間髪入れずに殴りかかろうとした


…よく覚えていないが、俺達はよく色んな奴らから絡まれて喧嘩の絶えない日々を送っていた気がする
殴りかかろうとしたのはその条件反射だった

だが、その影が幼い子どものものであるという事に気づき、すっ…と拳を下げた

『殴らないのですか?』

違う場所から、また別の白い人影が現れた
ソイツが不思議そうに問いかけてきた


「「子どもは殴らない主義だ」」


俺達はそう言った

「ただし、行儀の良いガキに限るけどな?」
「あぁ…悪さをする奴はぶん殴る」

すると、何が可笑しいのか

ふふふっと笑いながら、紫色の影がソロソロと近づいてきては俺にピタリとくっついてきた

『どっちにしようか迷ってたけど…気に入ったよ
ボク、こっちの子にする〜!』

『あら、奇遇ね?
私はこっちの子が気に入ったわ』

隣を見れば、相棒にも誰かがくっついていた

「**…、なんか気に入られたらしいよ?」

「お前もだろ?」

触れられている感覚があまり無いが、手を伸ばして触ると触る事が出来た
ユラユラとした影は思いのほか触り心地が良く、スベスベしていた

擽ったそうにはしているが、手を掴んで頭?を押し付けてくるから嫌がってはいなさそうだ

気づくと、相棒は白いやつに向こうへ引っ張られて何やら話し合っていた

「ところで、ココどこ?
あとキミ達は誰?」

『ボクっ、カミサマのカラナシ!
ココは君たちの世界とは別世界の星?
みたいな??』

カラナシって、唐梨(カリン)か?
高い声からしてそうかなとは思ってたけど、カラナシは少女…つまりボクっこなのか

「え…カミサマ?
カミサマってあの神様?
別世界の星…って、なんだそれ??」


ちんぷんかんぷんなんだけど…?


『諸事情でね〜
別世界からこちらの世界に合う魂を探してた…みたいな?
そしたらさ!
見た目が好みの2人がいたからさ〜』

「いたから…?」

『誘拐しちゃった〜!
あはっ★』

「………はい?」

ごめん、悪びれない様子で言われると…ちょっと殺意が湧くんだけど…

「やっぱ殴っとく?」

『やだ〜★』


はぁ…

なんか無邪気すぎて、殴る気が失せた

「誘拐ってさ、神隠しみたいな…?」

『そうそう〜!
でも身体は持って来れないから捨てて、魂ズルズル〜って引っこ抜いて、ジョキンッて切って連れてきたんだよ!』


なにこの子、無邪気なのに言ってること怖っ…!?

「という事は、俺らの身体…」

『もう無いよ?
君達には一瞬でこっちの世界に連れて来られたように感じたかも知れないけど、実際こっちにくるまで数年はかかってるからさ!』

「……えぇー…」

話を聞けば聞くほど、なんだか脱力感が…
悪びれない様子のカラナシに軽く目眩もする

『大丈〜夫!
ボク達がさ、前のよりもも〜〜っと良い身体を作ってあげるから!
どう?嬉しいでしょ!?』

「はぁ…」

前ので良いんだけど…と言いたいのだが、もう既に無いからどうしようもないのか

ここまで話を聞いて、俺は考えた

俺達には、親や親戚はいなかった
なんでいないかは忘れたけど、実の所、毎日毎日同じことの繰り返しで飽きていたというか、地球に未練なんて微塵も無かったんだよな

もし未練があるとしたなら、幼い頃からいつも一緒にいた相棒の事だけだろう

あっちも話し終えたのか、白い影を抱き上げてこちらへやって来た

「話聞いたか?」

「んー、大体は?
新しい身体くれるんだってさ」

「あぁ
ハンデがあるけど魔法とか色々なスキルってのをくれるらしい
それと色々見える眼もくれるそうだ」

え、スキル?
ステータス?
なにそれ、ゲームじゃん

「ハンデってなんだ?」

『地球で過ごした時に得た記憶のエネルギーを変換して、スキルとしてお渡しします』

「つまり記憶が無くなると?」

『そうなります
ですが、全てではなく記憶を一部を残す事も出来ます』

「なるほどね…
**は、どのぐらい渡すか決めた?」

相棒は頷く

「俺は95%にした」

「…そんなに渡しても大丈夫なの?」

「どの部分の記憶が消えるかは基本ランダムらしいんだが、計算とか日常生活するのに支障をきたさない部分は別だから残すのは5%で十分なんだと」

「へぇ
じゃ、俺も同じで良いか」

『お二人とも95%で宜しいですか?』

「うん
でも2つ気になる事がある」

『何でしょうか?』

俺は相棒を指さし

「**と一緒に転生…って言うんだよな?出来るの?
あと記憶無くなったら、コイツの事も忘れない?」

その質問に、相棒はハッとした

やっぱり気づいて無かったのかぁ…
概ね、一緒に転生出来るから何とかなるだろとか思い込んでたんだろうね

『ボクと***は管轄が違うからね
下ろす土地はどうしても別になっちゃうけど、星は同じだからそのうち会えると思うよ〜!』

『そうですね
**に頼みたい事もありますので、再開する可能性は充分にあるかと
それと記憶はランダムで消えるのですが、特別に再開したらお互いの記憶だけですが全て戻るようにしておきますね』

これで安心でしょう?と白い影が笑った…ような気がした

「それなら大丈夫だな」

『話は以上なんだけど、質問とかは無い〜?』

「正直、分からない事だらけだが…
コレばかりは下りてみないことには分からないな」

「それな?」

『ふふっ…確かにそうですね
それでは、今から記憶を操作しますね
楽にしてください』

『目が覚めたら地上だからね〜
Lv上げ頑張ってねん★』

おいおい、Lvもあるのかよ…
益々ゲームだな

白み行く世界が迫り、ふと隣を見たら相棒もこちらを見ていた
ニッと笑ってきたので、俺もニヒッと笑い返す


「「またな、相棒」」




これが俺が地上に生まれ落ちるまでの記憶だ

ランダムに消えると言われた通り、話の中で覚えている事も抜けている部分もあった

それに…相棒の名前も顔も、今まで一緒にしてきた事も記憶からプツリと消えてしまっていた

でも悲壮感はあまり感じなかった
同じ星に生まれると言っていたんだから、そのうちまた会えるだろ

そんな楽感的な気持ちでいた



目が冷めると、俺はまた真っ暗な部屋にいた

いや…部屋では無い

もっと狭い、石箱のような手触りのする物の中に体育座りの状態で閉じ込められていたんだ

手でペタペタと触れて確かめるが隙間は無く、ノックしてみると壁が薄いのかパラパラと案外簡単に崩れていく
それならと少し強めに叩き続けてみたら

パリン…パリン…

と綺麗な音を立てて壁が崩壊し、外が見えた

「あ……いてっ」

立ち上がって外に出ようとしたが、思っていたより天井が低く、頭を強かにぶつけてしまった

痛む頭を擦り、膝立ちのまま這いずりながら外に出た

ぼんやりと淡く黄色く発光するトーチのような明かりに照らされたそこは、昔見た映画に出てくる白石を組まれて建てられた、遺跡の祭壇のような場所だった

振り向くと、中央の祭壇には子ども1人が入れる程のたまごが置かれ、正面が割れていた

「あ〜、あんな小さいたまごの中にいたのかぁ
そりゃ狭いはずだわ」

ぶつけた頭を撫でると、額の違和感に気づく

額を撫でているのに、触る手が見えるんだ

「え、なにこれ…?」

手を左右に動かすとそれを追って目が動くのだが、何故か額でも動く感覚があるというか…

恐る恐るそっ…と触ると、縦に切れ込みが入っていた

うん
間違いなく目だな、コレ…

そう
俺の額には、3つ目の眼があった

祭壇に置かれた古い銅製の曇った鏡を覗き込む

ヌルりと血の滴りそうなほどに赤黒い額の眼と、写真で見た事のある幼少期時代の俺がこちらをじっと見ていた

少し違う部分があるとするならば、額の眼と少し尖っている耳だろうか?

それにしても、だ

転生したら子どもからやり直しなのか…

なるほどね?

「すげー…
厨二病みてぇ…!」

俺の感想はこれに尽きる

実は、俺はいい歳して未だに厨二病が殆ど治っていない
転生出来ると言われた時も、未知の恐怖より好奇心が勝っていたぐらいだ

そこにこの眼である

「カッコイイ…」

もう、ワクワクが止まらなかった

「この眼、カミサマがハンデの変わりにくれるって言ってたやつだよな?
色々見れるなら自分のステータスとかも見られるのか?」

すると

ウィーン…

という音と共に、文字が書かれたボードが浮かび上がった


−−−−−−

【名前】未定(偽名)/最上 瑪瑙(真名)
【種族】下級魔族/男性型両性種
【年齢】0歳
【モルド】夢魔

Lv.1/****

HP:1/∞
MP:1/∞
力:1/∞
魔力:****
素早さ:10/∞
命中:100/100
運:100/100

スキル

スリープLv1/4
魅了Lv1/4

-魔法-
闇Lv1/4
木Lv1/4

特殊スキル

魔眼Lv1/4
ドレイン|アサインメントLv1/4
たくわえる∞

メタモルフォーゼ
絶対防御/人間
偽装

−−−−−−

空いた口が塞がらなかった


生命維持に必要なステータスが、殆ど1…!?


え、普通は転生したら他の人より強くなるとかじゃないの!?
さっき頭ぶつけた時、よく死ななかったな俺…

それに魔族って人間じゃないし…あと


男性型両性種


って、なに??

わからん…

モルドが夢魔ってなってるけど、夢魔って確かインキュバスとかサキュバスだよな?

それなら特殊スキルの内容も理解出来るな…

たくわえるは、蓄えるか貯えるな気がする
ドレインがあるからエナジーとか、金とか物を収納しておく感じ?

試しに拾った小石にスキルを使うと、手から消えた
思った通り、ボードを開いてみると中に収納されていた

「これは便利だな…」

ふむふむと頷き、他のスキルも試そうとした時だった


ジジっ…


とノイズ音が走る
そして…


『やっほ〜★』


ガチャッ


『いやちょっと!これ電話じゃないからね!?
神託だから切れないよ〜!?』


ちっ


「俺の身体を弄くり回して魔族にしたうえ、HP1とかに劣化させたカミサマじゃん
コンニチワ?」

嫌味をふんだんに盛り付けて挨拶をしてやった

『えぇっ!待って待って!?
劣化させてないってば〜!
話を聞いてよ、ねっ?ねっ?』


このカミサマ、なーんかイマイチ信用出来ないんだよな

裏がありそうというか、底意地が悪そうというか…

『ステータスは確かに今は1ですぐやられそうに見えるけど、人間の姿なら絶対防御ってのがあるからさ
ボクみたいなカミサマ位の力じゃないと、キミは傷つかないから大丈夫っ
勿論、魔法も効かないからね!」

「おぉ…!
それならHP1でも大丈夫だな」

ただ、人間の姿の時だけっていう制約付きか

『でしょでしょ〜!?
絶対防御が効かないのは、許可した相手とカミサマだけだからね
許可さえしなければ問題な〜し!』

カラナシはキャッキャと無邪気に笑う

「分からない事が他にもあるんだけど、真名と偽名ってなに?
偽名なんているのか?」

『偽名はいるよ!
それと、真名は絶〜〜っ対に!誰かに教えちゃダメだからね?
自分より強い魔族にバレたら、ほぼ死ぬまで完全服従確定だからね?
奴隷扱いされるからっ』

…マジですか

「わ、分かった…
それと1番疑問のコレなんだけど」

『ん?
どれどれ〜?』

俺はボードを指さして言った


「男性型両性種って、なに?」


最初は両生類かなにかの魔族かと思ったけど漢字が違うし…

そんな俺の質問に、少し間を空けてからカラナシが言った


『ふふっ、それはね〜?

男の姿の……両性具有の事だよ?』




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