長編

□多神星アルビア《異世界を創造スキルで生き抜く》4
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日が登っている間はギャァギャァと騒がしい大小様々な魔物達も、夜が近づくと途端に静まりかえる

朝昼の魔物達ととって代わるかのように、恐ろしく強い魔物達が活発に…されど音を立てず静かに動き出し、弱者である魔物や冒険者達をいつ襲おうかと、こちらをしきりに監視している

この国に、弱者の居場所は存在しない…




日が届きにくい木々の間

鉄針のように硬い体毛で覆われた赤黒い猪がいた

その巨体を揺らしながらのっしのっしと歩き、仕切りに土の中に鼻を埋めては匂いを嗅いで、餌となる植物やキノコを探している


フゴー…フゴー…


枯葉をかき分けて夢中で探していたようだが、それは目の前に突如として現れた、大きな金属の壁に邪魔される事となる

金属の壁は向こう側が見えないが、その壁からたまにカーン!と叩く音が聞こえ、その音を聞くと心臓が高鳴り、攻撃しないといけないような気分になる

猪はその壁に象牙のように立派な長い4本の牙を向け、助走をつけて思い切り体当たりをかました!


しかし、悲しいかな


猪の運命は、攻撃をした時点でどうやら決まってしまったようだ

突き立てたはずの牙は壁を貫通することができず、壁の横から出てきた小斧でガッチリと固定されてしまう


「今です!!」


壁の向こうから声が聞こえたかと思いきや、両サイドから小さな影が素早い動きで躍り出た


「やーっ!!」

「え、えいっ!!」


猪にとって、その小さな影の動きはスローモーションかのように遅く感じただろう


相手は間違いなく、自分より弱い


それなのに動けずに攻撃され、猪のボルテージが更に上がっていく

「興奮しているので足からの攻撃に注意してください!
狙うのであれば、固定している首の後ろを!!」

「わ、わかった…!
首の後ろ……


ここーーっ!」


ガリィィッ!!

ザシュゥッ!!


刃物で斬りつけた音と氷が削れるような音が森に鳴り響いた後、ズゥゥン!と地面が大きく揺れた


小さな影は、動かなくなった猪を揺すって確かめる

金属の壁の向こうにいた大きな影も近づき、猪の瞳孔を確認する

「やりましたね2人とも
討伐成功です!!」


それを聞いた小さな2つの影

子犬と子猫は顔を見合わせてからプルプルと震え…


「やったーー!!」
「た、倒せたよっ…!」


初めて2人だけの攻撃で大型の魔物を倒せた事を、互いに抱き合って大いに喜んだ


その様子を近くで見ていた俺達も、もう良いだろうと頷いて表に出る

「凄いじゃないか!
よくやったな、2人とも」

俺はニッと笑い、2人の成長に拍手を送る

「臆せず行った首への攻撃が致命傷になっているな
これからも急所に当てられるようになれば、討伐速度が格段に上がるだろう」

倒した魔物の傷口を確認しながら、腕が上っているなとベンが感心している

「イーサンの魔法を遠距離型じゃなく、爪への属性付与で近距離攻撃にしたのが良かったな」

「そうですね!
自分に合う戦い方を編み出していけばもっと強くなれるはずです
2人とも、この調子でこれからも頑張りましょう!」

「「はいっ!!」」

イーサンとマシュは照れながらも嬉しそうに、ピンっと腕を伸ばして元気よく返事をした

「うんうん
それにしてもバーナードの鉄壁の守りは…相変わらず桁外れだな?」

止めた本人の倍は確実にある猪に突進されても微動だにしないとか、どんな肩と足してんだよと言うと、グリズリーのバーナードは、ワハハッと口を大きく開けて得意げに笑った



俺たちは先日、魔族領である死の国【コスモルト】へと到着した

ドマドとコスモルトの国境は一目瞭然で、目に見えて違っていた

ドマド側にバリアでも張られているのか?と思う程、その境目はハッキリしていたんだ

分かりやすく言うと
ドマド側はなだらから丘や綺麗な緑の草原が足元に生い茂っている

それに対し

コスモルト側は枯れかけているかのような見た目の不気味な木々が密集して生えており、そのせいで日がほとんど入らないのか昼間だというのに変に薄暗く、足元は湿り泥濘んでいるところも多々あった


完全に魔の森、って感じの見た目だ


その国境を見て俺達は、ドマドとのあまりの違いに本当に入って大丈夫なのかと小一時間ほど悩んだくらいだ

特に靴を履けない獣人の3人がな?

泥パックとかに使われるような綺麗な泥ならまだ良いのだろうが、変に泡立ってねばねばドロドロしている土に直で触れるのはそりゃイヤだろう

俺でもイヤだ

どうにか出来ないものかと考えた俺は、国境のバリアでヒントを得て、光と風魔法を使って3人の足の裏を保護できる結界を張る事に成功した

靴の汚れ防止に、ついでに自分とベンにもかけておく

泥って意外と重いし、戦闘中に動きを阻害する可能性もないとは言えないからな


コスモルトは普通に馬車等で横断する場合、魔物と戦闘になって時間を取られたり、綺麗に舗装された道や橋が無いので、なんと半年以上はかかる事もあるらしい

「魔族領ってかなり広いんだな」

「そうみたいですねえ」

俺たちは夜になって完全に暗くなってしまう前に、野宿する場所を決めることにした

今日は視界が開けた川辺である

今は腰を掛けられるほどの石に布を敷き、焚き火の準備をしながらコスモルトについて話し合っていた

「だからダンジョンも複数あると言われているそうだ
…だが、広大すぎるが故に魔族の数が減った今の状況はそれなりに危険だろう」

「魔物の数が増えているって話か?」

俺が首を傾げると、ベンが頷く

「増えすぎた魔物は餌を求めて国境を越える
この国に面した隣国は、国の騎士団を派遣しなくてはならないほどに、魔物の討伐に日々追われているそうだ」


うわ…

狩った魔物の素材とかを流せばそれなりに国の資金にはなるだろうけど、犠牲者の数が多そうだな…


「減らした数よりダンジョンから溢れる数が年々増えていて対応ができなくなっていると、ギルドでは言ってましたよ」

「…それ、このままだと隣国もこの国みたいに魔物に飲み込まれるんじゃないのか?」

「そうだろうな」


コスモルトの魔物は1匹1匹が強いうえ、数が異常に多かった

群れで行動しているモノも多く、たとえその魔物の強さがCランクとされていても、群れになればその危険度はBやAランクへと変わる

俺たちは森に入って10分もしないうちに、頭が山羊と禿鷲、体が獅子の巨大なキメラと出くわした

俺たちより遥かに大きく、この森の主か近しいものなのかと思える強さだったのに、そのキメラを倒してまたすぐエンカウントした魔物も似たような大きさと強さであったことから、この国ではこれが普通なのだということが分かった

「俺たち5人とピルプルとムウの3匹を合わせれば、現時点で出てくる魔物ぐらいなら苦も無く倒せるって感じだけど…
国の騎士団ってどれくらい強いんだ?」

「強さは兵士のほとんどがDで、たまにCランク
騎士団長や副長がBランククラスだそうです」

「「………」」

この度晴れてDランクになれたチビ2人は、大木に吊るして血抜きしている巨大な猪を見てから、無言でムリムリと首を横に振っている

「バ、バーナードが動きを止めてくれたなら大丈夫…だけど」
「ボク達だけであの猪は、まだムリだよー!?」

「Dランクの兵士だけなら、例え罠を使ったとしても間違いなく怪我をする」

猪やキメラは単体ならCランク、群れはBランク相当だ

魔物の数が増えているそうだが、その話から察するに兵士の数は減っていそうだな…



「あの川の水は飲まない方が良いですね
何やら異臭がします」

「そうなのか?」

俺は近くを流れる川を覗き込む

パッと見は、何の変哲もないただの川に見える
匂いも分からないが、獣人の嗅覚は優れているので何かがおかしいのは間違いないのだろう

因みに、今は魔物の接近にいち早く気づけるようにと消臭効果のアクセサリーは外しているそうだ
例の異臭がすれば即座につけられるように、アイテム袋に入れてある

「魚がいませんし、水苔が生えていません
こういう川の水は飲まない方が良いですね」

「あ、なるほどな」

確かに、川の中に魔物はいるが魚がいなかった

うん、納得



ジャングルに戻れば安全な家がある

だが、俺たちは敢えて危険な野宿をしていた

何故かというと、ベン達はチビ2人に野宿のイロハを教えないといけないからだそうだ

最初に提案された時、野宿に付き合わせてすみません、とバーナードに言われたが

「俺らって仲間だろ?
出来るだけ同じ行動を取るのが当たり前なんだから、そういう遠慮はいらないぞ
勿論これからもな」

片頬をニッと上げて笑って言ったら、では遠慮なくと笑い返された

実の所
俺も何度か野宿を体験してはいるのだが、他の冒険者達のように旅の道具を使ったりした訳ではなく、家で作った飯を食べたり、魔法でパパッと光の玉を浮かせて灯りを確保したりしていた


はっきり言って、それは野宿の経験があるとは到底言い難いだろう


そんなこんなで野宿というものを知る為、俺もチビ2人と一緒にベンとバーナードに色々と教えてもらっていたりする

「焚き火は周りに燃える物がない場所で火起こしをする
集めた枯れ草や枯葉を敷き、火が付いて安定したら上に細め、次に太めの薪となる木を上に組む」

「上が燃えるのに時間がかかる物だな」

「そうだ」

ここらは、こっちの世界に来たときにやった焚き火と段取りは同じだな

ベンの持つモサっとした枯れ草は、見るからによく燃えそうだった
実際よく燃えるし、軽いので風を吹きすぎると火の粉が舞い
飛ぶ

ベンが細長い棒と四角い金属の板みたいなのを取り出した

「それって火打石ってやつ?」

コクリとベンは頷き

「これを擦り合わせ、出た火花を枯れ草に飛ばす」

ほうほう

シャッシャッと擦ると、黄色い火花が飛び、枯れ草などに火が付きあっという間に燃え上がる
そして火種が消えないように気をつけながら薪にも徐々に火を移していく

「焚き火はこんな感じですね」

「あったかーい!」
「マ、マシュ、近づきすぎると燃えちゃうよ…?」

チビ2人は焚き火に手をかざして温まっている

コスモルトは北国という事もあり、日中は涼しくて良いのだが、日が落ちた夜はプジェトよりも冷え込む

なので魔物避けにも、寒さを凌ぐためにも焚き火は必須だった

「焚き火は出来たし、寝る為の布は後で良いとして…
次は食事の用意か」

「そうですね!
時間がかかりますし、猪を捌いてしまいましょう!」

収納したら1発で肉や皮になるのだが、そこも経験だからと解体方法を教えてもらうことにした

「ここに刃を入れてですね…こうすれば、皮と肉が剥がれます
この時期の猪は脂が多いので刃はよく拭いて…」

「す、すべるっ…!」
「あ、皮に穴空いちゃったー!?」

「排泄物がかからないように、ここ縛ってから内臓を抜いた方が良いか?」

「あぁ
この膜で繋がっている、ここを切れば重さで下へと落ちる」

「じゃあ汚れないよう、下にデカいタライか何か…」

色々処理した後、川の水が使えないのでそこは魔法で綺麗に洗い流して、筋肉に沿って切り分けて、どんどん枝肉にしていく

ここまで来たら、ザ・骨付き肉!って感じだな


実は、猪の魔物は全部で3頭出現していた

バーナードとチビ2人、俺とベン、ムウとピルプルでそれぞれ1頭ずつ討伐したのであと2頭は俺の収納に入っていて、すでにスキルで解体済みだ

「収納魔法に解体なんてオプションありましたか…?」

とバーナードは首を捻っていたが、解体は元からあったしなぁ…

他に収納スキルを持っている人物にはまだ会えていないので聞く事も出来ず、俺はなんとも言えなかった


内臓はハツとレバーとブタマメ、食べられそうなモツだけ取って、あとは肥料にしようかと思ったのだが、ムウが欲しいと言うので渡したら美味そうにガツガツ食べていた


ムウはワイルドだな…


ピルプルも生で食べられるはずだが、ボク達は調理したのが良いです!と首を横に振られてしまった


新鮮なうちに食べようということで、今日の晩飯はモツ鍋にしようと思う

ムウとピルプルに見張りを頼み、俺たちは晩飯の準備に取り掛かる

まずは下処理を済ませ、綺麗に洗ったモツを鍋に入れて下茹でする
何度か水を取り替えて下茹でをし、灰汁を取って臭みがなくなったらモツを取り出して、鍋に水と醤油とみりん、砂糖と鶏出汁を入れて火にかける

「よし…イーサン、マシュ、そっちはどうだ?
すりおろせたか?」

「出来たよー!!」
「は、はい…これっ」

「おぉ、こんなに沢山すってくれたのか
ありがとうな」

2人から受け取ったそれぞれのボールには、大量にすりおろされた生姜とニンニクが入っていた
それも適量を鍋に入れて、余ったものは収納して後日別の料理に使うことにした

「モツを戻して…と」

「こちらの野菜も切れたぞ」

すっとベンが差し出したボール6つには、キャベツもどきとニラがこんもりと盛られていた

いや、こんなに食べ……るか

大人とピルプル達だけでなく、チビ達も戦闘でよく動き回るからか、2~3人前は余裕でペロリと平らげるんだよなぁ

コバルドレッドにいた時も、朝晩は爺さんの料理を
昼と間食は俺が作ったのを食べていた

そのおかげか、痩せて骨が浮いていた体に満遍なく栄養が行き渡り始めたようで、毛艶も良くなってブラシで解かすとサラッサラの艶々になった

そしてどうやら身長も伸びてきたようで、最近では2人からピキッとかクキッみたいな音が聞こえてくる

本人たちも急に来た成長痛に戸惑い、たまにもだえながらコロコロと床を転がったり、腕や足を目一杯伸ばしてキューン…と鳴いている


ごめん

本人達はきっと大変なんだろうが、その様子は見ていてとても可愛かった

ま、俺にしてやれることは飯を食べさせる事だけだ

がんばれ?


「ありがとう
肉はどうする?
一応、下処理は済ませたけど」

「食べます!」
「お肉!?食べるーー!」
「ボ、ボクも…!」
「無論、俺もだ」


デスヨネー



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