短篇

□T漆黒ワルツ
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『漆黒ワルツ』





魔界が栄えたのは今は昔の話


一生朝が来ない世界で相手の気持ちを尊重しあい、愛し合うという事は魔界に住む者の間では非常識な事。
笑い事で済むだけならまだ良いが、もしそれが自分より下級の魔物なら即消滅させたりする
気に入れば、強姦なんて当たり前


・・・それが魔界の常識だった



魔界にそびえ立つ城の中でも、極めて年期が入った北に属する赤褐色の古城
天高く垂直に伸びる本塔の屋根の終わりは黒い霧がかったような空に隠れて見えないが、他の幾本も尖った別塔の屋根は下界を見下ろす事が出来る程の高さを有している
その中の一つ。尖った塔の頂上に器用に足先だけでしゃがみ込んで、いつもと変わらない下界を魔王は見ていた

「・・つまらん」

黒くたなびく漆黒の蝙蝠の翼が、一陣の風に揺れる

「・・・」

風を纏い背後に現れたのは、魔王の第一後継者。つまり、魔王の子息だ
魔力も他の魔族とは桁外れに壮大、冷静で無慈悲な所は誰に似たのか
ここに・・魔王の傍に無断でやって来たという事は、次期魔王の代替わりを狙っているのかもしれない
そろりと背後で動く気配を感じる


しかし、魔王は動かなかった


魔王は長年、城の主として国を指揮ってきたが、最初は生き残る為に力を振るってきたが、最近は段々と『生きる』という事について疑問を抱くようになってきていた

殺戮と暴行、殺伐とした味気ない毎日の繰り返し。
いったい、生きていてなんの意味があるのか?
この事を考える度、移動魔法で屋根に昇っては下界を眺め続けている

「失礼致します、魔王様」

敬語を使っていても、隠せていない不穏な空気を漂わせながら、隣に腰掛ける

自分を対等の存在だとでも思っているのだろうか。

横目で睨むが、当の本人は素知らぬ顔をしている
この息子はどうやら、私を相当嫌っているようだ。
遥か昔、生みの親である母親の腹を裂き、この世に産まれ堕ちると共に、私に対して侮蔑と嫌悪の眼差しを向けてきたのを思い出す
だいたいの後継者は、私・・魔王という存在を見るやいなや、発狂したり気絶をする者が多く、下手をすると自殺しだす者もいた。

「私の魂を破壊しにきたのか?」

双眸を細めて問う
嵐の前の静けさなのか、魔子の横顔は無心さを表している

「・・・そうです」

少し自分より背が高い私を、座りながらも一心に見つめてくる
私も、その切れ長のタイガーアイから眼が離せなくなった・・






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