□ポーカーフェイス
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本当はわかっているんだ
アイツに嫉妬しているって事を
そんな醜い感情を君にだけは知られたくない
だから私は仮面を被る
『ポーカーフェイス』という名の仮面を……
「でねぇ〜写楽ったやねぇ〜」
昼食中にも関わらず、何時もの様にピノコは写楽の話題を私に振ってきた
最近のピノコの話題は、食べ物(主にデザート系)かファッション、または今話している写楽の事ばかりだった
彼女にとって数少ない友人の一人だし、よく遊んでいるから自然と話題に上るのだろう
だが、私にはそれが我慢ならなかった
はっきり言って、不愉快この上ない
妻が夫の前で他の男の話ばかりするのだ
これが楽しい訳がない
瞳を輝かせ、生き生きと写楽の話をするピノコ
写楽と一緒に犬に追いかけられただの、写楽が自分にケーキをおごってくれただの、私にとってどうでもいい話題を、いかにも楽し気に喋っている
ピノコは私が他の男の話を聴いて、楽しいと思っているんだろうか?
「先生、話聞いてゆ?」
「んっ?……あぁ、聞いてるよ」
ピノコの私を呼ぶ声に、ようやく我に返った
「ウソッ!先生、ボヤァ〜ッてしてたもんっ!」
咄嗟にピノコの方を見ると、彼女は少しばかり不機嫌そうな表情をしていた
私が話を聴いていなかったのが、お気に召さないらしい
「あ…あぁ、すまない……ちょっと考え事をしてたんだ。で、何だって?」
「もぉ、やっぱい聞いてなかった!だかや、午後かや写楽と映画見に行く約束したんらけど、先生も一緒に行こう」
「映画か……」
「うん。先生、今日はお仕事ないって言ってたれちょ?たまにはピノコと一緒に映画見に行こうよ」
既に食事は終わり、空になった食器を片付けながらピノコは私に問いかけた
「何を見に行くんだ?」
「うんとねー『決戦!鉄腕アトムVSマグマ大使・三つ目族の陰謀を追え!』ってゆーの」
「何だそりゃ?」
「大河アクションラブロマンスコメディーなんらって」
「…………」
明らかに怪しげなタイトルの映画に、写楽の趣味が伺えた
写楽にしてみればピノコとふたりで見に行きたいに違いない
私だって例えピノコと一緒だとしても、ヤツと映画を見に行くのは御免だ
「すまないが、今日中に目を通さないといけない書類があるんだ……映画はお前達で行って来ればいい」
アイツと映画になんか行くな
お前は私の妻なのだから私の傍にいればいいんだ
喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、私を見つめるピノコに対してそう答えた
なんの理由もなく駄目と言うには、あまりにも大人気ない
それに、私のつまらない嫉妬心でピノコの曇る顔を見たくなかった
彼女にはどんなときでも笑顔ていて欲しい
例え、それが他の男と一緒にいるときでも……
「れも……」
私を見つめるピノコの瞳が、一瞬揺らめいた
私はいつものように冷静を装い、ピノコを見つめ返した
「いいから行って来い……約束してるんだろう?」
「うん……」
躊躇するピノコを促し、私は席から立ち上がるとドアに向かって歩き出した
「先生……」
「あまり遅くなるなよ」
ピノコの顔も見ずにそう告げると、私はリビングを出て書斎に籠った
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