物語
□Episode.2
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リナリーの部屋まで行くと、椅子に夕月を座らせ
丁寧に髪を梳かしていく。
時折、そっと表情を覗き見るも
涙で曇った栗色の瞳は、悲しくなる程光を宿していない。
そんな様子に、軽くため息をつきながら
暖かい温風を当てながら優しく髪を梳くことしかできなかった。
「…絶対嫌われちゃった…」
先に口を開いたのは夕月の方だった。
「私…どうしてこんな行動しか取れないんだろう…」
小さく呟いたかと思えば、大粒の涙が堰を切って溢れ出る。
「夕月…落ち着いて?アレン君だって、ちょっとビックリしただけだよ…」
椅子の上で膝を抱え込んでしまった夕月を
覗き込むように優しく声をかけるも
小さな嗚咽が返るのみである。
頭の中で必死に言の葉をかき集めてみても
夕月にかける言葉が見つからないまま
リナリーは彼女の頭をゆっくり撫でた。
「ねぇ…泣かないで?アレン君、まだ夕月の事よく知らないでしょ?」
いつも以上に穏やかな口調で問いかければ
少しの間をおいて、彼女は小さく頷いた。
「…多分…名前も…知らな…い…」
ところどころしゃくり上げながら
顔を上げずに小さく囁く。
(半年も前から片思いで、まだ名前も知らないなんて…)