物語

□Prolog
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白い壁に、規則正しく間隔を空けてならんだレンガ色の扉。
その扉に向かい合うように
細めの通路を挟んで、洒落た窓が並んでいる。
とある宿泊所の廊下、その窓からは
暖かな朝日が差し込んでいた。

その窓辺の一つに頬杖をつく格好で佇む少年の姿。
彼の視線の先には金色のゴーレムが
パタタ、と羽ばたきながら、何やら映像を再生している。

ノイズ混じりの映像に映し出されているのは一人の女性。
女性、と称するにはまだ幼い面影を残しながらも
少女とも呼びづらい、そんな面持ち。

彼女は自らの気持ちを伝えようと必死なのか
時折途切れる音声が伝える言葉は支離滅裂である。
それでも、身振り手振り大袈裟な程な仕草で纏まらない気持ちを
まくし立てている様子を、少年はじっと見つめていた。

その映像の再生が終わり、彼女の姿が
静止画へと変わってもなお、目を離す事なく…。

無意識に、少年の口元が緩んだその時
あからさまに寝起きとわかる不機嫌そうな声に
少年は無理矢理現実に引きずり戻された。

「…朝っぱらから色ボケか?馬鹿弟子のくせにいい御身分じゃねぇか…なぁ、アレン?」

その声に、肩を跳ね上がらせる程に驚き
咄嗟にゴーレムの顔に手を被せる事で映像を止めると
アレンと呼ばれた少年はゆっくりと振り返った。

「そ、そんなんじゃありません、師匠と一緒にしないで下さい…」

ほんの少しだけ頬を染め、ぶすくれた表情を作れば
先程映像を見ていた時の横顔よりも、ずっと幼い印象になった。

「あぁ?んなこたぁどうだっていいが…さっさと出発の支度を済ませろ」

そう言いながら、長く伸びた赤い髪をかきあげるようにして、仮面の男は踵を返す。
自ら話しを振っておきながら、アレンの反応など、心の底からどうでもいい様子である。

「え…?支度って、僕の支度ならとっくに終わって…」

言いかけて、アレンはハッと言葉を止め青冷めた。

「師匠!また自分の荷物、部屋中に散らかしたままなんでしょ!?」

仮面の男は答えずに、相変わらずのけだるそうな様子で部屋に入って行く。

「あ〜も〜…昨日ある程度まとめておいたのに…あのバカ師…っ!」

そう小さく呟けば、アレンは慌てて彼の後を追う。

その背中を、金色のゴーレムは静かに見守った。

『ちょっと!どうしたら一晩でこんなに散らかせるんですかっ!?』
『あぁん?ごちゃごちゃうるせぇ、黙って片付けろ馬鹿弟子!』

『…理不尽だ…!理不尽すぎる…!』

部屋の中から、いつも通りのやりとりが聞こえると、ゴーレムはニカっと機嫌良さそうに笑った。
全て記録し、届けるつもり。
少年の帰りを待ち侘びる、映像の人物に、お土産話と洒落込むつもり……。



映像の女性と、アレンとの出会いは
この日から数ヶ月遡ったところから始まる。
偶然で、必然な
当たり前のようで、とても不思議な
彼らの日常…。

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