物語

□Episode.5
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 暖めたカップに紅茶を注げば、豊かな香りが広がった。
談話室に備えてあるティーカップを一つ拝借し
アレンの分の紅茶も注ぐ。

「お砂糖は…このくらい、かな…はい、アレン様…」

紅茶を淹れている姿を見るのは
アレンにとってもちろん初めてのことなのだが
こんなにも幸せそうな表情を浮かべるのだな、と
その横顔を思わず見つめてしまうほど
彼女は穏やかな表情をしていた。

「ありがとうございます」

暖かいカップを手に取り、彼女の笑みに
自らも微笑みを返す。

「あ〜…夕月さん…」

「は、はい!?」

まだどこかおそるおそるな彼女を
なるべく驚かさないように、ゆっくりとアレンは声をかけた。

「あの…『様』はつけなくていいですから…ね?」

苦笑気味の彼に、一瞬慌てるも
夕月にとって何よりも安らげる紅茶の香りがそうさせるのか
先ほどよりも冷静に、彼の言葉を受け取ることができる。

「あ…は、はい…じゃあ…」

ゆっくりと顔を上げる彼女に
アレンは小首を傾げた。

「…私の事も『夕月』と、お呼びください…」

耳まで真っ赤に染めながら、両手でティーカップを包み
書いて字の通り、勇気をぎゅっと振り絞るようにして
紡いだ言葉に、アレンは柔らかい笑みを浮かべる。
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