物語

□Episode.6
1ページ/4ページ


 廊下を無我夢中で走る。
時計の針はすでに、戻らなければいけない時間を越えていた。
仕事に遅刻してしまうなんてこと
今までになかったのに
きっと怒られてしまうのに
それでも、先ほどまでのことを思い返せば
彼女の心は、喜びの色に染まっていった。

(い、いけない…そんなこと考えてる場合じゃ…)

元々あまり無い体力を振り絞って
彼女は一直線にラボを目指した。


 勢い良くラボに走り込めば
驚いた皆の視線が集まってくる。

「お…っ…遅れて…っすみませ…」

息も絶え絶えに、夕月はやっとのことで言葉を紡いだ。
肩で息をしながら、目には零れんばかりの
涙を浮かべている。

そんな様子に、やれやれと苦笑でため息を零せば
リーバーは彼女の頭にポンと手を乗せた。

「ホラ、泣かなくていいから、仕事するぞ」

優しく声をかければ、夕月は慌てて目に浮かんだ涙を
両手でゴシゴシと拭った。

「は、はい!」

仕事に取り掛かろうとデスクに向かうと
側にいたジョニーが声をかける。

「それにしても珍しいね、夕月が遅れてくるなんて」

一瞬肩を竦める彼女に『責めてるんじゃないよ?』と
一度念を押してから、ジョニーは
その理由に予想がついていながら、敢えて問いかけた。

「何かいいことでもあったの?」

その途端、みるみる内に彼女の顔は
耳までもまき込み、真っ赤に染まっていく。

「え…と、それは…」

俯きもごつくも、夕月の口元は
正直に緩んでいった。

彼女のそんな幸せそうに緩みきった赤く染まる頬に
科学班一同が、上手くいったことを確信し
内心でホッと胸を撫で下ろしたのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ