物語
□Episode.1
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その狼狽えように、驚いたのはアレンの方。
そう、彼の名はアレン・ウォーカー
夕月が密かに想いを寄せる相手である。
「あ…いえ、僕は…」
アレンが何事か口にしようとするも、その暇を与えず
夕月は彼の服に、僅かに跳んだ薬品を、
自らのポケットから取り出したハンカチで必死になって拭いていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
何度も繰り返す彼女はというと、長い髪からポタポタと薬品を滴らせたままである。
「落ち着いて下さい、ホラ、君の方が…貸して?」
そう言うが早いか、アレンは夕月の手からハンカチを取ると
彼女の頭を、それで優しく撫でた。
「劇薬はなかったですよね…?大丈夫…?」
彼のそんな行動に、夕月はオーバーヒートしたブリキロボットのように
蒸気を吹き上げんばかりの顔でしばし硬直してしまう。
「あ……あの……」
口をパクパクとさせながら
後ずさるように後方に手をつきそうになるが…
「あ…っ!危ないっ!」
素早く伸びたアレンの手が、抱き寄せるように彼女の身体を支えた。
「っ…!?」
「ガラスの破片がありますから、手をついたら危な……」
それ以上、アレンは言葉を紡げなくなる。
夕月が急に立ち上がったかと思えば、風のように走り去ってしまったからだ。
「…あ、あれ…?」