眠れる森の“風変わりな美女”

□U*鏡に映る想い
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 果てしなく続く空には、いくつもの綿雲がぽっかりと浮かんでいた。
 白い鳥が自由と平和の名の下に、気持ち良さそうに空を飛び回る。そんな日和だ。
 ユトゥルナ王国の至宝ともいうべき、リス・ブランシュ城は、青々と茂る森に覆われた丘陵に立つ。リス・ブランシュ城の一番高い塔からは、森の向こうに都を見渡すことができる。遥か向こうまでくっきりと見える大河は、この森のひとつの大きな湖を源流としていた。
 森の一角に、気が無く開けた場所があった。勾配のない、平らな広場である。
 そこから響く音は、空とはこれっぽっちも関係ない、というような凄まじいものだった。
 ひとりは、男性用の簡素な服を着、金髪を高い位置で括りあげた少女。
 もうひとりは、薄青の外套を羽織った青年。
 互いの片手剣を交差させている。
「ゆっくり! はい、進んで、戻る。……進んで。戻る。そうだ」
 ユトゥルナ王国の王女、オーロラは剣稽古の真っ最中だった。相手は、青の妖精、メリーウェザー。
 魔女、マレフィセントに奪われた記憶と母を取り戻すためだ。
 昨日は、オーロラが目覚めたばかりだったので、大事を取って、剣の持ち方だけ教わった。
 しかし、今日からは一日も早く母を迎えに行くため、猛特訓が始まった。
 動きはゆっくりでも、摩擦で鋭い音が鳴り響く。耳が割れそうだ。
「まずは基本の持ち方を覚えろ。相手は人とは限らんぞ。魔獣と戦うやもしれん」
「そっか。魔獣だったら困るわね」
 オーロラは剣を振るいながら、応答した。
「魔女の使いも魔獣だが、魔女自身も変化へんげできる」
「それなら、この突き方じゃ、通用しないんじゃない?」
くな。それでも基礎が大事だ。基礎がなきゃ、他の技は習得できん。ほらほら、足の動きが鈍ってるぞ」
「もう疲れたー!」
 弱音を吐くと、メリーウェザーに一喝された。
「早い! そんなんでフレアさまを取り戻せるか!」
 厳しい師による稽古は延々と続いた。
「反応が遅い!」
「足! リズムを意識しろ!」
「体が重い! 軽やかに動け」
「庭園十週! 走ってこい」
「ダラダラ休憩するな、再開するぞ!」
「攻撃をちゃんと避けろ」
「目をしっかり開けろ!」
 早朝から始めて、もうあたりは薄闇に包まれていた。
「終わりだ。よく頑張った。時間がないから詰め込みなのに。明日もやるから、きっちり睡眠をとるように」
「はい! ありがとうございました」
 オーロラは勇ましく返事をし、敬礼した。
 一日で、すっかり気分は軍人だ。


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