果てしなく続く空には、いくつもの綿雲がぽっかりと浮かんでいた。 白い鳥が自由と平和の名の下に、気持ち良さそうに空を飛び回る。そんな日和だ。 ユトゥルナ王国の至宝ともいうべき、リス・ブランシュ城は、青々と茂る森に覆われた丘陵に立つ。リス・ブランシュ城の一番高い塔からは、森の向こうに都を見渡すことができる。遥か向こうまでくっきりと見える大河は、この森のひとつの大きな湖を源流としていた。 森の一角に、気が無く開けた場所があった。勾配のない、平らな広場である。 そこから響く音は、空とはこれっぽっちも関係ない、というような凄まじいものだった。 ひとりは、男性用の簡素な服を着、金髪を高い位置で括りあげた少女。 もうひとりは、薄青の外套を羽織った青年。 互いの片手剣を交差させている。 「ゆっくり! はい、進んで、戻る。……進んで。戻る。そうだ」 ユトゥルナ王国の王女、オーロラは剣稽古の真っ最中だった。相手は、青の妖精、メリーウェザー。 魔女、マレフィセントに奪われた記憶と母を取り戻すためだ。 昨日は、オーロラが目覚めたばかりだったので、大事を取って、剣の持ち方だけ教わった。 しかし、今日からは一日も早く母を迎えに行くため、猛特訓が始まった。 動きはゆっくりでも、摩擦で鋭い音が鳴り響く。耳が割れそうだ。 「まずは基本の持ち方を覚えろ。相手は人とは限らんぞ。魔獣と戦うやもしれん」 「そっか。魔獣だったら困るわね」 オーロラは剣を振るいながら、応答した。 「魔女の使いも魔獣だが、魔女自身も 「それなら、この突き方じゃ、通用しないんじゃない?」 「 「もう疲れたー!」 弱音を吐くと、メリーウェザーに一喝された。 「早い! そんなんでフレアさまを取り戻せるか!」 厳しい師による稽古は延々と続いた。 「反応が遅い!」 「足! リズムを意識しろ!」 「体が重い! 軽やかに動け」 「庭園十週! 走ってこい」 「ダラダラ休憩するな、再開するぞ!」 「攻撃をちゃんと避けろ」 「目をしっかり開けろ!」 早朝から始めて、もうあたりは薄闇に包まれていた。 「終わりだ。よく頑張った。時間がないから詰め込みなのに。明日もやるから、きっちり睡眠をとるように」 「はい! ありがとうございました」 オーロラは勇ましく返事をし、敬礼した。 一日で、すっかり気分は軍人だ。 |
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