宝石の国の薔薇薬

□第三章 想いは宝石よりも尊く
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 マリーは例の白雪姫のドレスを着ている。
 今から、王太子を看病している国王陛下にお目通りする。そのための服としては、残念ながらこれより適当なものがなかった。
 マリーは、薬を届ける名目のもと、ジークの部屋に入った。
 王に向かってスカートをつまんでお辞儀をする。
「おお、マリアンネ嬢か」
「お久しゅうございます、陛下。正式な挨拶を省くこと、お許しくださいませ」
「ああ。そなたが来てくれてよかった」
 引き締まった体躯に、整えられた髭、凛然とした態度。全てが王と呼ぶに相応しい。
 だが、その顔には疲労が滲み出ていた。
「陛下、これよりわたくしが容態を見守らせていただきます。陛下はしばしお休みなさいませ」
「しかし、余も心配だ。これまで、このように体調を悪くしたことはなかった」
「いいえ、陛下がお倒れになっては政治が、国が滞りますわ。わたくしは、ヘンゼル女史よりいただいた、特別の薬をお持ちいたしました。どうかご安心を」
 しばらく躊躇していたが、王はやがて頷いた。
「それでは、お言葉に甘えよう。隣の部屋にいるから、何かあったらすぐに起こしてくれ」
「かしこまりました」
「マリアンネ、美しくなったな」
「え……?」
「あの少年のようだった娘が、嘘のようだ」
 舞踏会の晩、王は見ていたのだ。
 優雅な素振りを。ジークを想って憂える表情を。
 一人前の淑女に近づいた、気品ある少女を。
 マリーは顔を赤らめた。
「も、もったいのうございます……そのようなお言葉」
「では、任せたぞ」
 マリーは藍玉の瞳をまっすぐ王に向けた。
「はい」
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