宝石の国の薔薇薬

□終章
1ページ/1ページ

「マリーく〜ん!」
 ファニーが抱きついてきた。
「お誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます……」
 あまりの熱烈歓迎に少々驚いたが、素直に嬉しい。
「昨日は助けてくれてありがとう!あなた、今王宮中で英雄になってるわよ!白雪王子って」
「また……新しい名前が」
 あの衣装のせいか。しかも女の方だったのに、王子。
「どんな王子様より素敵だったわ」
「いいえ」
 マリーははっきりと断言した。
「ジークより素敵な王子様なんて、いませんから」
「あらあ、マリー君は可愛いお姫様ね」
 嬉しそうにファニーは言った。
 盛大な宴が催され、たくさんの人に祝ってもらった。好物のトルテもたくさん食べられて幸せだ。

 でも、もっと嬉しいことがあった。

 宴の後、呼び出された部屋に行くと。
「ジーク!」
 瀟洒な室内に、王太子が立っていた。
「これは私からの贈り物だ。淑やかな令嬢に人前で渡すのは、さすがにまずいから」
 ジークはそれを丁重に手渡した。
「僕の剣!」
 てっきり盗賊のところに置いてきたと思っていた。
 しかも、ダイヤモンドが抜けて穴になっていた鞘には、薄藍の宝石が嵌められていた。
「薬作りにダイヤモンドを使ったと、ヘンゼル女史から聞いた。急ぎで宝石研磨士に頼んで、作ってもらったんだ。お前には、アクアマリンの方が似合う」
 マリーは自分の瞳と同じ色の装飾を眺めた。
「ありがとう!一番嬉しい贈り物だよ」
 ジークはマリーを力強く抱き締めた。大好きな香りに包まれる。
「お誕生日おめでとう、マリー。世界で一番愛するお前が生まれてきてくれて良かった」
「ありがとう。ジーク、大好き!」

 美しい藍玉の剣は、窓から差し込む陽光を浴びてきらきらと輝いていた。
 まるで恋人たちを祝福するかのように。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ