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□感触と熱
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丸川書店エメラルド編集部、通称エメ編。そこに響き渡る大声は最早恒例となっている。
「羽鳥、吉川千春の原稿はどうした!!」
「すいません、音信不通です。
今からちょっと絞めてきます」
「あぁ、そうしてくれ」
「高野さん!!印刷所からです!!」
「ギリギリまで時間延ばせ!!」
いつも以上にピリピリしているのは
エメラルド編集部編集長、高野政宗。
これは、修羅場明け直後に起こった
話である……
「お疲れさまでした〜…」
「お先、失礼します…」
屍と化した木佐さん、美濃さんが帰宅し、羽鳥さんも既に帰宅したらしい。今、編集部に残っているのは俺と高野さんの二人だけ。
俺も今日はさっさと帰って寝よう…
そう思い、帰ろうとした時に
高野さんに呼び止められた。
「小野寺」
「…………なんですか…?」
「…お前、今回は頑張ったな。お疲れ」
「えっ…」
てっきりまたセクハラでも
されるかと思った。
だから少し、戸惑ってしまった。
「あ…」
「今日はさっさと帰って寝ろよ?」
頭を優しく撫でられると頬に
熱が集まる。
「わ、分かってますよ!
それに、子ども扱いしないでください」
頭に乗せられた手を振り払い
鞄を持って立ち去ろうとする。
「律」
耳に響く低音ボイス。
「ッ…高野さんこそ、早く帰って
寝てください。…体壊されたらこっ
ちが困るんで」
心臓の大きな音は無視をして
俺は会社を後にした。
「…ほんと、素直じゃねーのな」
頬の火照りは、まだおさまらない。
感触と熱
END
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