仮面ライダーディケイドReturn


EPISODE5 刺客
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 ――東京都内 国際自動車会社セントラル 屋上 15:39 p.m.
 風が吹き荒れるビルの屋上。国際的に通用する有名な車製造会社、様々な車を販売する大会社セントラルのそこに一人の異形が降り立った――グロンギだ。
 鳥のグロンギだろうか、背には大きく立派な翼。黒を主色とし、脚は鳥の爪を想わせる形状。胸部を覆う金と銀の装飾。顔には嘴(くちばし)をイメージさせる金色の仮面。もはやその容姿からは神々しささえ感じるほど。
 そして腹部には通常の物と異なり、更に装飾が施された黄金のバックルが――
「残念だったね、せっかく作ったのに……」
 そこへ別の人物が訪れた。青い服に身を包んだ若々しい少年だ。
 少年は怯え一つ見せることなく、眼前のグロンギへと近づいていく。鳥のグロンギは行動を起こそうという気がないのか、少年が近づいてくるのを黙認。ついには目の前にまで接近させる。
「何か言ったらどうだい? ……ああそうか、言葉か。連れてきたばかりで、人間の言葉が解らないんだね」
 言うと少年は軽く咳払い。喉に手を当て、簡単な発声練習を行うと、グロンギに向けて言葉を発した。
「ゴグザ。ボドダング パバサギンザダダサ、ドブグ ゴギゲデガゲスジョ リント」
 するとグロンギは少年の方を向く。
『ジヅジョグバギ。リントの言葉を話すなど、私にとっては造作もないことだ』
「あれ? 何だよ、喋れるんじゃんか。でも、さすがは数少ないゼの称号を持つグロンギだけのことはあるね。覚えが早いよ」
 グロンギが少年を鼻で笑う。さも、当然だというように――
『ガメゴのことなら別に構うことはない。奴は単に私の力を試す、実験台のようなもの。それに、あの程度のグロンギならいくらでも作り出すことは可能だ』
 グロンギの手中に闇が渦巻く。今にも闇の奥底から怨念の声でも聞こえてきそうなほど、闇は気味悪く禍々しい。
 だが、少年は闇を前にしても恐怖の表情を浮かべるどころか眉一つ動かない。むしろ、さも面白そうに笑ってみせた。
「さすがは“究極の闇を操る者”。ン・バザブ・ゼグだね」


 ――板橋区内 同時刻
「たりゃああああああっ!!」
 三人のライダーと三体のグロンギによる激しい戦いが繰り広げられている中、その中の一人である仮面ライダーファイズは、強烈な両足蹴りを海老を想わせる未確認生命体28号(メ・ゾエビ・ギ)に対して炸裂させていた。
 過去にクウガとしてグロンギと戦い続けてきた経験からか、ファイズは強固な身体を持つグロンギ相手にもかかわらず、一方的な戦闘劇を展開している。強靭な殻で覆われた部分を避け、比較的軟らかい部位である腹部等に狙いを定め、そこを重点的に狙った。
 28号も腕の鋏を金槌のように振り回すが、ファイズは全てを上手く回避。大振り過ぎる攻撃を繰り返す相手に上手く疲労を募らせ、攻略しやすいよう隙を作らせた。
 だが、28号に募るのは披露だけではない――苛立ちもそうだ。比例して攻撃も余計に大振り化。幾度と攻撃を外し、同じ数だけ紺色の砂利が浮かぶ同色の地面を抉る。
 ファイズは体勢を低くすることで上手く回避。一時的に28号の猛攻から逃れ、ドライバーの左腰の部分に装着されたアイテムに手を伸ばした。
「え〜っと、これがパンチする時に使う道具だよな。……んで、この携帯についてるコレを外して、と――」
『READY』
 士に言われた通りの手順を踏み、小型デバイスを起動させるファイズ。デジタルカメラを模したパンチングユニット、“ファイズショット”を彼は右手に嵌める。
「おっしゃあっ! ……と、エネルギーチャージも忘れずにっと」
『EXCEED CHARGE』
 ファイズの四肢を巡る紅いライン、“フォトンストリーム”。その一つ、右腕のストリームに輝きが走る。向かう先は当然、彼の右手に装着されたファイズショットだ。
 光が到達するより少し前、28号は自慢の右腕と共にファイズに襲いかかった。
 頭上から振り下ろされる固い鋏。ファイズはそれを体勢をずらすことで上手く避け、代わりにと“右腕による強烈な殴打(グランインパクト)”を28号の胸に叩き込んだ。
 浮かび上がる「Φ」のマーク、衝撃のまま後方へと吹き飛ぶ28号。
 強固なはずの甲羅も一撃の前に粉砕され、28号はみっともなく地面を転がった。バックルにも皹が入ったようだ。
 刹那、28号は轟音と共に爆発した。
「士! こっちは終わったぞ。お前も早くケリ着けちまえよ!」
 少し離れた所で狐の未確認、32号(メ・ギネー・ダ)を掴み押さえつけていたディケイドが、無言で軽く手を振る。32号が鋭い蹴りで地に叩きつけられたのはすぐ後だ。
 倒れ伏せながら蠢く32号を見下ろし、ディケイドが両手を払う。
「リドドロバギ(みっともない)ジャヅザバ(奴だな)。ガラシン(あまりの) ジョパダビ(弱さに) ガブヂグゼスゼ(欠伸が出るぜ)」
「ザラセ(黙れっ)! ギダダビ(一体)、ビガラパ(貴様は) バビロボバンザ(何者なんだ)!? リントバボバ(リントなのか)――ゴセドロ(それとも) バボバ クウガ(クウガなのか)!!」
「ザンベンザガ(残念だが)――ゾヂヂゼロバギバ(どっちでもないな)。ゴセパ(俺は)、ゾヂヂビロバセバギ(どっちにもなれない) ダザン(ただの) ザンマロボザ(半端者だ)」
 言うとディケイドは、右腰部に装着されていたライドブッカーを手に取り、鋭い刀身を露見。銀色の刃を輝かせ、あらかじめ取り出していた一枚のカードをドライバーに装填する。
「ザガ(だが)、ゴンバ(そんな) ザンマロボンゴセゼロ(半端者の俺でも) ゴラゲゾ(お前を) ダゴグボドパゼビス(倒すことはできる)」
『ATTACKRIDE SLASH』
 刀身を淡いマゼンタで輝かせ、32号に向けて素早く斬りかかるディケイド。刃は外側から内側にかけて、32号の身体を鮮やかに切り裂いた。
 バックルの状態に関係なく、32号の身体は無残にも爆発。肉片は上がる爆炎によって粉々となり、物が燃える静かな炎の音だけが、その場で虚しく響いた。
 三人は炎を前にそれぞれ変身を解除する。
 焦げ臭い匂いが改めて鼻を突いたので、ユウスケは鼻をすすり、手で拭った。
「終わったな、士」
「……ああ」
 あまり関心がないのか、ぶっきらぼうに言う士。ユウスケは相変わらずだな、と頬を掻いた。
 そんな中、一人炎から目を離そうとしない者がいた――五代だ。
 五代は眉間に皺を寄せ、やるせない表情で、眼前に広がる炎を見詰めていた。
 ふぅ、と息を吐く五代。ほんの僅かに強張っていた身体を弛緩させ、息に乗せて言葉を吐いた。
「でも、やっぱり嫌だな。戦いって――」
 なぜか五代の言葉が妙に気になり、ユウスケは彼の方を見る。
 興味無さそうに空を見上げていた士も、目だけを動かして五代の方を見た。
「どうして皆、最後には解決方法が拳に行き着いちゃうんだろ。やっぱり解り合うって解決策はできないのかな?」
「……随分と哲学的な話だな。まあ、実現は難しいだろうな」
 士は鼻で息を吐くと、眼前で燃える炎に目を向けつつ五代に向けて言葉を発した。
「現に長い歴史を持つ俺達人間でさえ、未だ完全に解り合えていない。食い違う意見や意向は争いを招き、軽くて喧嘩、重くて戦争に発展する。……現実ってのは結局そういうもんだ」
「でもやっぱり、俺はそんなの嫌だなぁ。殴り合いでしか解決できないなんて――そんなの悲し過ぎるから」
 五代の手に力が籠る。手の甲に血管が浮かび、同時に手と接していた衣服に皺が寄る。
「お前の言いたいことは解る、だから俺は否定はしない。だが、綺麗事を突き通せない現実もある――どうしても覆せないものもあるってことだ。それが解っているから、お前はその拳を振るうんだろ?」
「そう、なんですけど、ね――」
 歯切れの悪い五代の言葉。論する士の表情は普段通り仏頂面だったが、微妙に思わしくない。ユウスケに至っては考え込むように、苦い顔を俯かせている。……それからは誰も喋ろうとしなかった。
 聞こえるのは、目の前で燃え続ける炎の爆ぜる音と、徐々に音を大きくするパトカーのサイレンだけ。三人にはそれ等の音がとても虚しく聞こえていた……。
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