仮面ライダーディケイドReturn


EPISODE6 決戦
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 ――品川区内 05:42 a.m.
 ディケイドは、突然何者かに脳を鈍器か何かで揺さ振られたような気がした。
 彼は、先程まで仲間と共に未確認生命体の群れと戦っていた。敵を見つければ、手当たり次第に叩きのめす。一連の行動をずっと繰り返していた。
 何体葬ったかなど、興味がなかったので覚えていない――
 とりあえず、敵の数は着々と減っている。それは間違いない。
 現に自分の目前で無駄にもがいている奴以外に、もう怪人の姿は見受けられない。ユウスケも一応頑張ってくれていることを悟った。
 そして最後と思われる敵に向け、ディケイドは一気にとどめを仕かけた。
 黄色く縁取られたカードをドライバーに装填して必殺技を発動。必殺の飛び蹴り(ディメンションキック)で怪人を綺麗に爆散させる。
 着地の際に手が少し汚れたが、別に気にはしない。両手を払えば済む些細な話だ。
 変身を解くと、士は同様に変身を解除しているユウスケを見つけ、無事に合流。互いに怪我らしい怪我を負ってないことに、士は人知れず安堵する――次の瞬間だった。
 唐突に何かによって脳を揺さ振られた。耳鳴りが酷い痛みとして耳管へと伝わってくる。身体も乾き切った空気も、変身を解除した士の肌をぴりぴりと焼いた。
 正体は轟音――大爆発による轟音だった。見れば付近の建物の頂上が原因不明の大爆発を起こしている。瓦礫の破片が、その周囲に雨のように降り注いでいた。
 そして同時に目を疑った。クウガが、五代雄介が爆発の衝撃に飲まれ、地面に向かって落下していたのだ。
 すぐ様、士は耳を押さえていたユウスケに向かって叫び、その場から駆け出す。何かが落下する音がよく聞こえたために、発見に時間はあまり費やさなかった。
 クウガは仰向けに倒れ伏せていた、文字通り真っ白になって。手には熱で形状が歪み曲がった拳銃が握られている。
 発見と同時にユウスケが叫んだ。
「居た、五代さん!」
 慌てて駆け寄る彼に続いて、士も後を追いかける。見れば、既に一条をはじめとする警察の者達が、クウガの周囲を慌ただしく囲んでいた。
「おい車だ、パトカーだ――急げっ!」
 杉田も必死だ。形相を変え、同僚の刑事達に向けて猛犬のように吠えている。
「五代、しっかりしろ五代!」
 やがて一条が身体を揺すっている内にクウガの変身が自然解除。中から満身創痍の五代が現れる――五代は完全に意識を飛ばしてしまっていた。
 負けじと一条は桜井と共に必死に五代の名を呼び、身体を揺すり続ける。
「くそっ、車はまだなのかよ!?」
 ユウスケの嘆く声が無情にも響く。拳に力が籠っていくのを士は見た。
 その後、結局五代は目覚めることはなく、到着したパトカーで関東医大病院に搬送されていった……。



 ――東京都内 関東医大病院 07:44 a.m.
 桜子は慌てていた。早朝、まだ開院前にもかかわらず、規律や常識も気にせず騒がしく廊下を走る。
 こうなったのもあの電話の所ためだ。今朝、先程かかってきた一条からの連絡。
 ――五代雄介が、先程関東医大病院に緊急搬送された。
 聞いた時、目の前が真っ暗になった。驚愕のあまり、電話を手から滑り落としてしまったくらいだ。
 とりあえず、どの病院に搬送されたのか、病室はどこなのか、必要と思われる事柄だけを聞いて桜子はスクーターを走らせ、今に至る。
「あ、桜子さん!」
 廊下を進んでいた桜子は、突如背後から呼びかけられた。振り向くと、自分と同じように息を切らしている夏海の姿があった。
 桜子に近づくと、夏海は肩を上下させ、膝に手を当てながら、荒い呼吸に乗せて言葉を発する。
「夏海ちゃん。……来てくれたんだ」
「五代さんのこと、さっき、士君から電話で、聞きました。それで、五代さんは?」
「私も、慌てて出てきて、ついさっき着いたところだから――」
「おいナツミカン、こっちだ」
 その時、奥の廊下から声が聞こえた――士だ。奥の廊下の曲がり角から夏海達に向け、手招きする士がそこにいた。
 二人は士の許に駆け寄るや、間を空けず五代の容体について尋ねる。際に士の表情が微妙に曇ったのを桜子は見逃さなかった。
「まさか、五代君に何かあったんですか? ねえ門矢さんっ!?」
 言って桜子は士の肩部を掴む。彼女の勢いに圧され、士は観念したかのように息を吐いた。
 黙秘は無駄と感じ、士はありのままの現状をそのまま二人に呟きに乗せて告げる。刹那、桜子の驚愕に目が見開き、震えた両手が士から滑り落ちた。
「し、心停止……そんな、五代君が?」
 信じられない、と言いたげな桜子に士が肯定の意で頷く。
「どういうことですか。一体どうして、ねえ士君、一体どうしてそんなことに――」
「知るか!!」
 怒鳴る士に夏海が竦み上がる。発そうと脳裏に浮かべていた言葉も喉の奥へと引っ込んでしまった。
 片や士も病院内での大声に気が咎めたか、今度は少々小さな声で言葉を繋げる。
 その際、近くに偶然配置されていた自販機に歩み寄った。
「病院に着いて早々、奴は原因不明の心停止に陥った。他にも、屋上から落下して激突した際に打撲、火傷も患ったらしい」
 小さな溜息をつきながら、少々面倒臭そうに士が言う。自販機から購入した瓶の液体を少し口に含むと、彼は普段通りの口調で言葉を発した。
「……それ以外は知らん。とりあえず、奴はまだ生きている。俺が知っているのはそれだけだ」
 言って士は一気にドリンク瓶を傾ける。彼の表情、言い方は共にどこか悔しそうだった。
「とりあえず……連れてって、案内してもらえますか? 五代君の病室」
「解った、良いだろう」
 ついてこい、言って士は瓶を捨て、院内の奥へと歩き出す。二人も彼の後に続き、無人の廊下を進んでいった。
 やがて、妙に人が集まっている――ユウスケ達だ。桜子は中でも五代と特に親しい一条の名を真っ先に口にした。
 気づいた一条は彼女に向かって深く一礼。口を開き、静かに謝罪の言葉を発する。
「本当に申し訳ありません。よもや、このような事態になるなんて……」
 対し、桜子は首を左右に振る。
「いえ、一条さん達のせいなんかじゃ――それより五代君の容体は?」
 すると、一条に代わり、白衣を羽織った男が前に出る。軽く頭を下げると、司法解剖専門医師、“椿秀一(つばき しゅういち)”は桜子達に説明を施した。
「さっき、停止した五代の心臓に除細動を施しました。持ち前の並み外れた回復能力もあって、心機能も戦闘で負ったダメージも着実に回復、今はもう落ち着いています。ですが――」
「ですが? 何ですか椿さん!?」
 安堵したのも束の間、再び悲痛気に桜子が椿に詰め寄る。当初、言い難そうに顔を歪めていた椿だが、そんな彼女を前に黙り通すことはできず、病室の窓越しにベッドに横たわる五代を見ながら口を開いた。
「……意識が、意識が回復しないんです」
 聞いた桜子、夏海は絶句。二人を前に、椿は医師としての義務感から続けて言葉を発した。
「突然心停止した原因も未だ不明。どういう訳か昏睡も醒める気配がありません。お腹の霊石で心肺機能こそ異常無く動いていますが――」
 自分の調子を整えようと椿は乾燥した唇を舐める。
「正直なところ、このまま昏睡から醒めない――いわゆる、植物状態に陥る危険性も充分に考えられる。あいつに限って、そんなことはないとは思いますが、決して油断できる状態ではないことは間違いありません」
 聞いて、青褪めた顔をして両膝を着く夏海。椿も口惜しそうに歯を強く食い縛る。
 さほど取り乱してはいないが、一条も顔色が悪い。先程から何度も息を飲み、苦しそうに呼吸を続けていた。
「何とか……何とか五代さんを助ける方法はないんですか!? どうにか目覚めさせることはできないんですか!? あんた医者なんでしょう!? 傷ついた人を元通り助けるのが仕事じゃないんですか!?」
 椿の襟首を掴み、揺すりながらユウスケが訴える。掴まれた椿本人は抵抗の意を示そうとせず、ただ悲痛そうに自分の襟首に手をかける青年の顔を見詰めていた。
「止めて下さいユウスケ。医者の皆さんが、全力を尽くしてくれた結果なんです」
 慌てて夏海が引っぺがしにかかる。さすがにユウスケも出過ぎた行動を反省したらしく、乱れた呼吸を整え、落ち着きも同時に取り戻す――
 とはいえ、納得はできていないらしい。「でも、でも」とユウスケは助けを求めるように呟いていた。
 見ていた士が溜息を溢す。
 再び院内に訪れる静寂。掴まれた部位、特に襟首の辺りを元に戻し、椿が言った。
「そうだな、確かに君の言う通りだ。俺達は病人や怪我人を救うのが仕事だ――」
 椿は何かを乗せて息を吐く。
「でもな、医者だって万能じゃないんだ。救える命もあれば、救えない命もある。もし、全生命を救うことができる者が存在するのだとすれば――それは神だけだ」
 静かな廊下に椿の足音が響いた。
「神ってヤツは残酷だ。一体どんな思いで、不治の病だのグロンギ(未確認)だの、人間の手に負えないものを次々に創りやがって――時々文句を言いたくなるよ」
 「どうしてあいつ(五代)にここまでの苦労を背負わせるのか、とかな」と椿はつけ足した……。
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