仮面ライダーディケイドReturn


第10話 物語のワニ入る鰐
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 自分の周囲を縦横無尽に動き回る、殺気漲(みなぎ)る人の気配。肉眼にはまるで映らないが、それは決して杞憂などではなく事実。強化された視力でも捉えきることができない超速の世界に、敵――仮面ライダーヘラクスは身を置いているのだ。
 それは、ディケイドが扮したDブレイドの白銀の胸部に深く刻まれた、鋭い一太刀の傷が物語っている。これはヘラクスの持つ戦斧を模した武器、“ゼクトクナイガン”で斬り裂かれたものだ。
 超速度から繰り出される攻撃は、どれも必殺技級の威力。その前には、仮面ライダーブレイドの鎧も無意味に等しかった。
「この野郎っ、人の鎧を豆腐みたいに軽々しく斬りやがって!」
 連戦で募る鉛のような重い疲労。火傷のように内側からじんじんと響く痛み。そして今もなおクロックアップ状態から攻撃を仕かけてくるヘラクス。その全てに対して苛立ちを抱きながら、Dブレイドは「ちっ」と舌を打つ。
 そのまま横目で電王の様子を伺った。
『ご、ごめん、ウラタロス――ぼ、僕――もう――ダメみたい』
「ちょ!? 良太郎、マジでっ!?」
「――ったく!」
 どうやら役立ちそうにない。やはり彼はもう体力的に限界らしく、戦おうとする精神(ウラタロス)に肉体(良太郎)が追いついていない。既に両膝が折れ、体が今にも地面に吸いついてしまいそうだ。
 これがまたDブレイドに憤懣を誘発させる。こんな時に、と諦めたように頭を抱え、辺りを見回した。
 だがやはり、肉眼では何も捉えることができない。その時、彼はふと思い出したように声を上げた。
「おいっ! おいユウスケ、どっかその辺にいるんだろっ!」
 怒鳴るような、またどこか縋(すが)るような呼び声。突然のあまりユウスケは身を強張らせる。
「お前も仮面ライダーなら――呑気に観戦してねえで――俺を手伝えっ!」
 若干途切れた大声にユウスケは多大な申し訳なさを覚えた。そして発すべき言葉に詰まる。
「士君、実はユウスケは――その――」
 顔を歪ませた彼の気持ちを汲み取り、代弁しようとした夏海だが、彼女も士にかける言葉に迷う。何と言えばいいのか、素直に小野寺ユウスケは大切なファイズギアを紛失したと言えばいいのか――
 どうにも言い難い、そんな思いが彼女の態度に表出する。……悟ったのか、Dブレイドも「くそっ」と悪態をついただけで、これ以上は言及しなかった。
 「頼りになるのは自分だけってことか」、言い聞かせるようにそう呟き、細長な剣を構える。
 だが、それだけで敵の超速移動を打開できるはずもなく、再びDブレイドの体は大地を転がった。見れば自慢の白銀の胸部装甲、腹部中央のスペードマークの部分に数ヶ所の黒い銃痕が刻まれていた。
「そういや、あいつの武器は銃にもなるんだったな。クロックアップといい、まったく厄介な奴だぜ」
 言って、彼は一枚のカードを手に取る。直後、素早く片手に納めたそれを装填、ドライバーを閉じた。
「仕方ない、ブレイド奥の手を使うか!」
『ATTACKRIDE TIME』
 刹那、周囲の動きが完全に凍りついた。Dブレイドが発動させたカード、“スカラベタイム”の効力だ。
 倒れ込もうとしていた電王は、地表との差僅か数cmという極めて微妙な位置で固定。夏海とユウスケも妙なポージングと表情で固まっていた。
 もちろんそれは人や生物に限らず、物体も含まれている。つい先程枝を離れた緑の葉、果ては風に舞い上げられた砂埃まで――Dブレイド以外の全てのものが、その動きを停止させられていた。
 彼は首を左右に振り、目当てのものを見つけるや、その方へと足を進める。言うまでもなく、それはスカラベタイムの効力で動きを封じられたヘラクスだ。さしものクロックアップも、時間そのものを凍りつかされてはどうしようもなかったようだ。
 彼は、再度クナイガンによる斬撃を謀っていたらしい。戦斧を構えたその体勢がそれを物語っている。……「器の小さい奴だ」、そうDブレイドは呟いた。
 そのまま叩きつけるようにして、剣状に組み替えたライドブッカーで薙ぎ払う。白銀の胸部に横一閃の刀傷を刻み込み、ヘラクスを大きくはね飛ばす――同時に時間の流れも回復した。
「よぉ。気分はどうだ?」
 肩で剣を担ぎながら、Dブレイドが挑発気味に言う。歩み、片膝つくヘラクスへと近づきながら……。
 ヘラクスは何が起きたのか理解できず困惑していた。傷つけられた胸を苦しそうに押さえている。さすがに無防備状態からの攻撃は、甲虫の装甲と言えど堪えたらしい。
 ユウスケ達も、突然の戦況の変化に混乱。開いた口が塞がらず、丸くなった目が戻らずにいる。
「それじゃ、一気に畳みかけるとするか」
 その言葉に危機感を覚えたか、ヘラクスは慌てて体を後ろに転がして距離を置く。空かさず再びクロックアップの世界に舞い戻ろうと、トレーススイッチ作動のため、ライダーベルトの中心部、“ゼクトバックル”へと手を伸ばす――
「おっと、悪いが二度とそれを作動させる訳にはいかねえなっ!」
 だが、それをみすみす見逃すDブレイドではない。対策は既に彼の手中に納められていたのだ。
 それは素早くドライバーへと装填され、周囲に電子音声を響かせる。
『ATTACKRIDE MACH』
 彼が発動させたのは“ジャガーマッハ”、クロックアップには及ばずとも、常人の反応速度を遥かに上回る高速移動を可能とさせるカード。
 それにより俊敏な速度を味方につけた剣士は、見事相手の策略を阻止、腹部のベルトを切り裂く――ヘラクスは狼狽した。
 どうやらベルト内部に組み込まれた“クロックアップシステム”が故障を来したらしい。トレーススイッチをいくらスライドさせても起動しない。変身機能は腕の“ライダーブレス”に装着された“カブティックゼクター”が担っているので変身解除こそないが、戦力低下は免れない。
「こりゃあいい。お前、どうやらクロックアップができなくなったみたいだな。……好都合だぜ」
 そんな彼を前に、Dブレイドは黄色く縁取られたカードを構える。そして体勢を立て直そうとする敵へと言葉を投げかけた。
「お前、一体どこから――どの世界から来た? そもそも何で俺達を襲った? 全部答えてもらおうか?」
 だがヘラクスは無言を突き通す。クナイガンを右手に持ち、そのまま右手首へと左腕を持っていく――
『Rider Beat』
 ヘラクスの左手が右手首のゼクターを反回転させる。すると、電子音声と共にゼクターは貯蔵していたタキオン粒子を解放、彼の腕力を大幅に強化させた。
 これを必殺技だと気づく者はあれど、疑う者はいない。当然Dブレイドも例に漏れなかった。
「やれやれ。どうやら自己紹介より、俺に倒されることの方がお望みらしいな」
 溜め息を一つ溢し、既に展開されたバックルへカードを投げ入れる。

『FINAL ATTACKRIDE B.B.B.BLADE』

 白銀の一本角から紫紺の右脚にかけて、青い稲妻が鋭く迸る。
 そのまま彼は軽く飛び上がり、迫るヘラクス目がけて稲妻のごとき飛び蹴りを放つ――必殺技“ライトニングブラスト”は、白銀の胸部に見事炸裂した。
 間髪入れず、大爆発を来すヘラクスの体。木端微塵に消し飛んだのか、彼は欠片も残さず姿を消す。
 片や、キックを決め終え着地するDブレイド――もといディケイド。仮面ライダーブレイドの変身が解除された彼は、着地と同時に手に付着した砂を払った。
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