仮面ライダーディケイドReturn


第2話 再び、世界を巡る旅へ
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「久しぶりだな――変身!!」
『KAMENRIDE DECADE』
 突如滅びの現象と共に現れた怪人、アンノウン達と戦うために、再び仮面ライダーディケイドへと変身した士。
 両手を払い、敵を見据え、構えなしという無防備かつ余裕溢れる体勢から、その動きを見て、敵に探りを入れていく。
「そんじゃま、片づけるとするか」
 アンノウンの群れに突っ込み、擦れ違い様に次々にキレのある攻撃を当てていくディケイド。すでにその手には剣状に変形させたライドブッカーが握られており、彼が腕を振るう度に刃は襲いかかろうとする敵の体に、逆に太刀傷を刻んでいった。
 片や斬撃に倒れ、次々に体勢を崩していくアンノウン達。彼等は体に刻みつけられた一文字の傷を確かめるように手で押さえながら、陸に上がった魚のように悶え苦しんだ。
 だが、苦悶の表情を浮かべている彼等と違い、単身のみで戦っているディケイドは息一つ乱していない。むしろ、剣の表裏に付着した汚れを拭う余裕すら見せている。
 そしてついに気合いを込めたディケイドの強烈な一振りが、複数のアンノウンを一気に地に沈めることに成功した。
「相変わらず、呼吸と声が気色悪い奴等だ。でもまあ、また復活されて出てこられても迷惑だしな。とりあえず倒しておくか」
 手を払うディケイド。相手が悶え苦しんでいる間に、一枚のカードを指に挟み込む。
「アンノウン相手ならこいつの出番だ――変身!」
 敵の攻撃を回避しつつバックルを展開。戦いながら手に取ったカードを装填し、再びサイドハンドルを閉じる。カードはすぐ様システムによって読み込まれた。
『KAMENRIDE AGITO』
 淡い白光がディケイドの身体を包み込み、一瞬にしてその姿を全く異なる者へと変身させる。
 黄金の角、そして赤い複眼。極限まで身体能力が研ぎ澄まされた黄金の肉体。その場にいた複数のアンノウンの内の一体が、その姿を前に重苦しい声で「アギト」と唸るように呟く。
 その姿は紛れもない。“仮面ライダーアギト”そのものだった。
「さて、一気に叩かせてもらうが、文句なんてもちろんないよな?」
 またも音を立てて手を払いながら、アンノウン達へ見せつけるようにカードを提示するDアギト。
 寸座にカードを裏返し、手始めといった感じで、あらかじめ展開されていたバックルへとそれを差し込む。
 本能的に危険だと察知したのか、アンノウン達は身体を強張らせ、それぞれ剣尖をDアギトに向けた。
『FORMRIDE AGITO FLAME』
「まあ、聞いてやるつもりなんざさらさらないがなっ!」
 電子音と共に、再度彼の姿が変わる。アギトの身体を基に炎を想わせる赤い体。特に右肩部の変化が著しく、その手には“巨大な曲刀(フレイムセイバー)”が握られている。超越感覚の炎の戦士、“フレイムフォーム”だ。
「――さてと、覚悟はいいか?」
 鋭い剣身がアンノウン達に向けられると同時に、剣格部分がアギトの頭部のクロスホーンのごとく展開し、刀身には橙色に燃え盛る炎が宿る。
 対しアンノウン達は、それぞれの武具を構えてDアギトに向かって突進。射程距離内にまで近づくや、素早く彼の体目がけて武器を振るった。
 ――だが、Dアギトの攻撃はそれよりも速かった。
 敵の剣が迫るや否や、素早くそれを掬い上げて燃える剣を一振り。槍が向かってくるなり、先端を滑らかに叩き割って一刺し。相手の動きを利用した、カウンター攻撃が次々にアンノウン達の体に炸裂していく。
 斬撃を食らったアンノウン達は、その身を炎に焦がされ、次々に頭上に光の輪が浮かべて大爆発を起こす。鼻にツンとくる火薬の匂いと、生暖かい風を残し、全ての怪人がこの世を去った。
「腕は落ちてない、か――」
 通常の姿に戻り、改めて手を払うディケイド。周囲には未だアンノウン達と同じ数の炎が上がり続けていた。
 だが安堵している暇はなく、彼の足下で唐突に火花が散る。気にならないほどの小さな火傷の痛みが足を駆け抜けた。
「何だ?」
 振り向くと、黒をベースとした様々な怪人達が歩み寄ってきているのが目に入った。だがしかし、その姿はアンノウンのような獣を模した姿ではない。
 どこかステンドグラスを想像させる色合い。お世辞にもスリムとは言えないゴツゴツとした岩のような体形。すぐにディケイドの記憶から、この特徴を持った怪人がピックアップされた。
「“ファンガイア”か。“キバの世界”から、わざわざ俺に会いに来たのか? それとも偶然この世界に迷い込んで来たか?」
 ファンガイアは人間の生命エネルギーである“ライフエナジー”を餌とする、吸血鬼と酷似した特徴を持った生物だ。本来ならば、やはりこことは異なる“仮面ライダーキバ”の世界に存在するはずの怪人である。
 その怪人達は、いの一番にディケイド目がけて襲いかかった。
「今日はいやに客の多い日だ。……迷惑な話だがっ!」
 攻撃を上手く回避して、拳で反撃に転じるディケイド。スナップを活かしたパンチが、見事に一体のファンガイアの顔面に突き刺さる。
「美人の客ならいつでも大歓迎してやるが、野郎と怪人は一生願い下げだ!」
 更に突進してくる大勢の怪人を空中回転を加えたジャンプで飛び越え、既に取り出しておいたカードをバックルへと器用に投げ入れる。
『KAMENRIDE KIVA』
 甲高い笛の音。ディケイドという殻を破って、中から吸血鬼をイメージさせる戦士が姿を現す。
 血液を彷彿させる赤い体。動く度にジャラリと音を立てる巻きついた銀色の鎖。黄色の眼光を輝かせ、仮面ライダーキバへと姿を変えた、Dキバが敵を見据えて身構える。
「野獣共が相手なら、こっちも獣だな」
『FORMRIDE KIVA GARULU』
 続けてカードを装填する。狼の遠吠えと共に赤い姿から青い姿へと変わった。
 青い胸部は狼の牙を想像させ、黄色の光を放っていた眼は全てを捉える獣の青に変化。左手には容姿以上に“狼を想わせる短刀(ガルルセイバー)”が握られている。
「さぁ〜てと、狩りの始まりだ!」
 そう言うと、Dキバは狼の脚力を活かして素早く敵の懐に潜り込んだ。刹那、まるで狼が爪を振るうようにガルルセイバーを活かして黒い体を連続で切り裂いていく。強固な怪人から火花が散り、口部からは悲鳴が上がった。
「まあまあか。だが軽さの面なら、こっちの方が他のより色々と使いやすいな」
 傷一つ無い銀色の刃を眺め、Dキバがガルルセイバーの表裏を撫でる。
「そろそろ、とどめとさせてもらうぜ」
 撫でることで研ぎ澄まされたガルルセイバーが青い輝きを放つ。
 それを手に、またも敵に向かって一気に距離を詰め、狼が獲物を襲うように牙の剣で脅威的な高速連続切りをファンガイア達に披露する。
 その傷が致命傷となったのか、怪人達は次々に硝子が割れ落ちたような綺麗な音色と共に粉々に離散、その場に崩れ落ちた。
 戦いを終え、一息をついたDキバは、全身をモザイクで覆い、キバから姿を本来のディケイドに戻す。
 だが、同時に再度この場を覆う不穏な空気に気づいた。……何かが迫っていると。
 ――そしてそれは、決して杞憂などではなかった。
 何かを避けるように、慌てて身体を右へ転がす。次の瞬間、強い風圧が彼を襲い、先程まで立っていた紺色の地面は、無残にもえぐり飛んでしまっていた。
 ディケイドはすぐ様周囲を確認。そして上空から降り立つ黒い鳥のような物体を発見した。
 鳥、いや鷲だろうか。それをより一層禍々しく変えた容姿、そして腹部に巻き付いた楕円形のバックルが、ディケイドに彼が“ブレイドの世界”で出没していた怪人、“アンデッド”であることを悟らせる。
 決して倒すことのできない不死の怪人、その数は全部で五十三体。様々な情報が記憶の中から引っ張り出され、その対処法をディケイドは頭の中で組み立てていく。アンデッドを唯一封印できる“ラウズカード”が脳裏に浮かんだ時、ディケイドは開いたライドブッカーに指を突っ込んだ。
「知ってるか? 俺はどこかのシステムと違って、完全に不死身のお前等を倒せるんだぜ?」
 バックルを開き、構えたカードを手際良く裏返すディケイド。
 スペードのクレストが鷲怪人の目に入った。
「“剣”と書いて“ブレイド”と読むってな――変身」
『KAMENRIDE BLADE』
 刹那、ベルトの中心部から淡く青白いスクリーンのような長方形のゲートが出現。
 ゲートは自動的にディケイドの方へと舞い戻り、その体を通過すると同時に、彼を新たな姿に変化させた。
 全身を覆う紫紺のスーツ。胸部と脚部を守る白銀の鎧。赤い輝きを放つ水晶のような複眼に、鎧と同じ色をした一本角は昆虫の王者と謳われたカブトムシを想わせる。
 その姿は、剣技を得意とする電撃属性の戦士、“仮面ライダーブレイド”のものに違いなかった。
「さて、飛ぶんじゃねーぞ。そこでじっとしてろよ」
 完全に変身を終え、片手にライドブッカーの剣を構えたDブレイドは、地に足を着けているイーグルアンデッドに向かって駆け、上部より剣を一気に振り下ろした。
 だが、剣が身を掠る寸前にアンデッドは皮肉るように大地から足を離す。そのまま上空へ舞い上がり、大空を泳ぐように飛び回った。
「そう、ご丁寧に聞いてくれる訳もない、か」
 頭を掻きながら、Dブレイドがぼやく。
 そのまま上空へと目を向け、空を舞うイーグルアンデッドに狙いを定めた。
 対し、イーグルアンデッドは猛スピードでDブレイドに飛び込んだ。その速度、勢い、迫力はまるで隕石のごとく。両手に備えた鍵爪が彼の息の根を止めようと黒々と怪しく光る。
「俺も舐められたもんだぜ。確かに以前の俺なら対処できなかったかもしれない。だが――」
 飛び込んでくる怪人にまっすぐ、剣先を向ける。そのまま緩やかに腰を深く落とし、両手に力を込めて剣柄が軋むほど強く握り締める。
「今の俺は前とは違う。俺もそれなりに場数は踏んでんだよっ!!」
 飛び込んでくる敵を紙一重でかわし、Dブレイドは剣をその翼に叩きつけた。
 強烈な一撃を見舞われ、翼をへし折られたイーグルアンデッド。大地に堕ちた鷲は勢いのまま地面をえぐり進む。
「さあ、それじゃそろそろ飛ばしてやるぜ。……天国って空へな」
 黄色いカードの縁を指で叩きながらバックルを展開、それも例に漏れず、すぐに装填される――

『FINAL ATTACKRIDE B.B.B.BLADE』

 バックルを閉じ、Dブレイドの必殺技が発動。脚力を活かして高く宙に舞い上がり、そのまま稲妻を帯びた右足をイーグルアンデッドの胸に突き刺す。必殺技の“ライトニングブラスト”だ。
 衝撃に耐えきれずバックルが開き、木っ端微塵に爆散するイーグルアンデッド。
 それを見届けたDブレイドは変身を解き、両手に付着した砂を払い落した。


「――さすがだな」


 その時、背後から士は突然呼びかけられた。
 戦いが終わり、一息つけると考えていた彼の口から、思わず溜息が出る。
「やれやれ今度の客は一体誰だ。“グロンギ”か? それとも“イマジン”か?」
 そう愚痴を溢しながら振り向くと、そこには怪人ではなく、九人の人の姿をした者達が立っていた。
 予想外の光景を前に言葉を発する前に、士はその面々に次々と目を映していく。
 ――白いドレスに身を包み、肩に薔薇のタトゥーを入れた女性。
 ――黒いセーター、肌の白いどこか不気味かつ神々しい青年。
 ――丈の長いコートに手を入れ、気配を完全に断っている男性。
 ――黒い衣服で全身を包み、同じく黒い帽子から白髪を覗かせた老人。
 ――灰色の背広のような上着を羽織る初老の男性。
 ――江戸に見られる古風な鎧を纏い、戦士の風格を醸し出す男。
 ――紺色の背広姿、左胸の勲章から警察関係者と思われる老男性。
 ――深々と帽子を被り、厚手のコートを羽織り、一進に懐中時計を覗き込む男性。
「お前は――」
 士の目が見開く。彼等九人を見回して、最後の一人に目を奪われたからだ。
 ――マフラーを首に巻いた、他の者達よりも一際若い茶髪の青年。
 彼こそ、自分に九つの世界を巡るよう伝えた張本人。いわば、仮面ライダーディケイドの戦い、その幕開けを告げた者に違いなかったからだ……。
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