ミントン通信

□風の隙間
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秋に近付いているとは言えまだまだ暑い。湿った風と共に蝉がまだ頑張って声を張り上げている。
うっすら汗をかいていたが、一歩そこへ踏み込めばひんやりとした空気と、少しだけカビ臭さを感じた。全く持って、外とは大違いで、まるで現実世界から切り離されたがごとく、ここだけの特別で静寂な時間がながれている。
そんな空間を山崎は嫌いじゃなかった。
山崎が訪れたのは、真選組の敷地内にある蔵のひとつである。
真選組の屯所の敷地は結構大きくて、主に使う会議室や局長室、副長室、食堂などが母屋で、あとは道場やら、隊員の寝泊まりする所、証拠物件を保存する所など、幾つかの建物が建っている。
その中のひとつ。
この蔵は主に古い捜査資料やら、なんだかわからないガラクタなどが置いてある。つまり物置になっているのであった。
普段ここを訪れるものはいない。大そうじの時に気持ち掃除するくらいだ。
蔵の中は意外に広く、薄暗いが一応電気が通っていて、裸電球が申し訳程度についていた。
高い場所にある小さな窓からは外からの光が差し込んで来ていて、キラキラほこりが光っていた。
乱雑に書類が段ボールに積まれていたり、謎の道具が置いてあったりしている。
山崎は、もうほとんどはしご状態の、ものすごい急な二階へと続く階段をゆっくりと上る。
木の軋む音だけが静かに蔵に響いていた。
二階の床から頭をひょこっと出すと、いた。
探していた本人、土方十四郎の、細いように見えて、実はがっちりしている背中がそこに見えた。
古い長机に向かっている。さすがに火気厳禁で、たばこは吸っていないようだった。
何故山崎が土方の居場所をつき止めたのかと言うと、机の上の書類は時効事件ばかりあつめてあった。それでも今の事件と関係している場合もある。
そこまで古い資料だと、屯所内の書物室では間に合わない。
それに以前も土方は、ひとりここを使って、調べものをしていた事があった。
資料を副長室に持ち帰ればいいのにと、言った所、資料を持ち出すのが面倒臭いのと、たまには一人静かにここにいたい、とのこと。
多分後者の理由の方が強そうである。
――だから、俺がここ使ってるのは、あんま誰にも言うなよ。特に総悟には――
そう、土方に言われた。
確かに屯所内にいたら落ち着かないし、休まらない。別に携帯を持ってる訳だし、音信不通になるわけでもない。
「……副長ぉ?」
山崎は驚かさないように、小さく声をかけた。
「……」
しかし返事がない。たまに仕事に集中していると、確かに聞こえていない事もあるようだが、そんな時でも人の気配には敏感で少しの物音や気配でもすぐに気付くのだが、不思議と反応がなかった。
「?」
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