ミントン通信

□ホワイトブレス
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巡回場所がかぶき町にさしかかる。
ここはもう歓楽街なので、そうとう酔っ払いだのなんだのが多い。
しかし、真選組プラス同心がここは見回っているので、未成年などの補導などはそちらに任せられる。
(……かぶき町か……)
ふと気がつくと、山崎は自然と足がある方向へと歩いていた。
(……アレ?……)
見上げるとその看板には、万事屋銀ちゃんと書かれていた。
いないのか寝たのか、部屋の灯は点いておらず、シンと静まり返っていた。
(……いないのかな……そうだよな、クリスマスだもんな……もしかしたら誰かと……)
山崎はそこまで考えて、ハッと我に帰り、急に足早にその場所を立ち去った。
(……っ……何考えてんだよ、俺っ)
うつむき加減で、早足のまま歓楽街を歩く。
(なんなんだよ……ただの巡回だろ?仕事で来てるんだろ?……なのに俺ってやつはっ……)
もし、あそこで、あの部屋に灯が点いていらたらどうするつもりだったのだろう?
いや、もしもなんて考えるのは空しい。
実際、点いていようがいまいが、胸に広がる苦しい気持ち。
(バカバカしい……俺までクリスマスなんてもんに当てられるなんて……っ)
そうクリスマスなのだ。きっと、どこか大切な人に会っているに違いない。
考えれば考えるほど、まわりの楽しそうな笑い声と空気とは裏腹に、気持ちは暗く重い方向へと向いてしまう。
気付けば歓楽街を抜けて、静かな住宅街へと入っていた。
ここも見回りコースなので戻ってきた形になる。
辺りはとても静かで家の中に灯が点いている。きっと家族でクリスマスを祝っているのだろう。
そろそろ屯所も近い。
早く帰ってみんなの輪に入ろうか。
いや、今日は早々と寝てしまうか。
でもきっと、ひとりになったら、また思い出して、ひとり思い悩んでしまいそうだ。
別に約束も何もしていない。
だから当然なのだ。
偶然会えるなんて、そんな夢みたいなこと現実に起こるはずがない。
(やっぱりきっと……誰かいるのかな……)
監察である山崎は、素行調査や尾行などお手の物である。
だけどそれはあえてしない。
そしてできない。
それは、知るのが怖いからというのもあるが、それだけではない。
相手を信じているからだ。
受け取った言葉達に嘘は無いと信じているから。
だから、そんな事はしない。
なのに、やっぱりこうやって疑ってしまう自分がいる。
そんな自分が嫌になる。
別に仕事かもしれないし、たまたまいないだけかもしれない。
山崎はひとつ、深い溜め息をついた。
(はぁ……帰ろう……)
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