ミントン通信

□ブルーキャンデイ
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(んー……今日もハードだったなぁ……)
パタパタと廊下を歩きながら、風呂上がりの濡れた頭にタオルを被った山崎はひとつ伸びをする。すると肩がポキポキと鳴った。
(運動不足なはずないんだけどね)
ついでに首を鳴らしながら、自室のふすまを開く。
ひとつ欠伸をすると、そっと閉めた。
(さあて、寝よっ)
別に明日は早番ではないのだが、早く寝れるときは寝るのが一番。
(あ……そうだった)
土方に出す報告書に間違えがないか、一応目を通しておこう。
長机をみる。
「……ん?」
風呂前にはなかった。
小さなラッピングがひとつ、ちょこんと乗っている。
「え……?」
実は本日3月14日。
バレンタインデーの時に山崎は隊士達にチョコを配っている。
朝から一日中隊士達から律儀にお返しをもらってはいた。
これもそのひとつであろうか?
それにしても、何も言わず置いてあるだけである。
しかも結構立派なもののようだ。
すっと座ると机の電気をつけて、そっと手に取ってみる。
真っ白い、本当純白というのだろうか、綺麗な紙に、澄んだ青色のリボン。
特に宛名も何もない。
(……まさかね……)
あり得ないであろう贈り主を浮かべて、山崎はひとつため息をついた。
自分も仕事だが、向こうも仕事だと済まなそうに言っていた。
別に気にすることなんて何も、そう山崎は答えた。
大体、あんなに強くてかっこいい人と付き合えてるだけで奇跡だ。
きっと自分なんか、不釣り合いだし。
(でも……ホワイトデー、ちょっと期待しちゃったな……)
そっと謎のプレゼントを持ったまま、机にうつ伏せになり、山崎は小さくため息をついた。
そして切なそうにひとつつぶやく。
「銀時さん……」
「……そんなに銀さんに会いたい訳?」
「……そりゃあ当たり前だよ……」
「会うだけでいいの?」
「十分だよ。別に、ものなんかいらないからさ」
そこまで言って、ようやく山崎はすごい勢いで顔を上げる。
「えっ!?えっ!?」
そこには壁にに軽くよりかかった、今まさに会いたいと言っていた人物。
銀時がいた。
「なっ……ええっ!?」
山崎は顔を赤くして、口を動かすが、上手く言葉にならない。
「ちょっと、退君」
銀時は混乱中の山崎にそっと近づき、方ひざついて、大体同じ位の目線になる。
「真選組の監察なんでしょ?油断しすぎ」
そう言うと、銀時はニコッと笑った。
毎度思うが銀時は特別である。
気配なく近づく事なんて、しかも真選組屯所に入れるなんて、銀時位である。
「あ、っていうか、えっとぉ」
山崎は改めて銀時と向き合う。
「なんでここに、てかいつの間に」
「え?ホワイトデーだろ?だからよ。いやー来たのはいいんだけど、丁度退いなくてよ〜。かわや行ってたわ」
そう言って銀時笑いながら頭をかいた。
「もう……」
本当にこのひとは心臓に悪い。
「にしても、退がそんなに銀さんに会いたいなんて思ってくれてたなんて」
山崎は今さっきポロリと漏らした言葉を思い出し、真っ赤になる。
「そっ……それはあのっ」
まさか、あんな告白をしてしまうとは思っていなかった。
「それはその、そういうんじゃなくて、いやそうなんですけどぉ……」
山崎はしどろもどろで顔を赤くして、上目づかいで銀時を見上げる。
「っ……」
きっと無意識であろう、山崎のそんな表情に銀時はたまらない。
(ああもうっコイツはっ)
やばい、可愛すぎる。
しかも、先程のプレゼントを見つめてため息ついた所とか。
「ったく、反則だぞコノヤロー」
「えっ?」
何がと問う前に、銀時から抱きしめられた。
「銀時さん?」
「やっぱり会いに来て良かった。……大正解」
そっと額を合わせて山崎と見つめ合う。
「オレも退にすごい会いたかったから」
「あっ……」
銀時も同じように思ってくれていた。
「銀時さん、オレ……」
山崎からキスをする。
少しぎこちない、触れるだけのキス。
軽くして離れる。
「……なんか、渡しに来たのにもらっちゃったな」
「あの……来てくれて……うれしかったから……」
「何?ちょっともう、そんな事言われたら、銀さん毎日来ちゃうよ」
「それは迷惑です。やめてください」
「なんだよー冗談だよ冗談っやだなー退君」
笑ってはいるが、銀時の場合いまいち冗談じゃなくて本気の時があるので、洒落にならない。
二人で笑いあう。
「銀時さん」
「ん?」
「今日は本当にありがとうございます」
「喜んでもらえればそれで十分」


ものなんていらない。

ただ会いたい、それだけの事。


幸せなホワイトデー。



END

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