ミントン通信

□桜色の隣
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(ったくもー……本当ありえないし)
大きな桜の木の下、山崎退は夜中にひとりぼやいていた。
まだ流石に早いのか、山崎の他に席取りをしている強者は辺りにはいなかった。いるにはいるらしいが、点々と離れているらしくとりあえず見当たらない。
(しかも寒い……凄い冷え込んでるんですけど……)
今年も真選組のお花見のための場所取りを土方から命令されていた。
監察としても、真選組隊士としても山崎の下は、沢山いる。
それなのに、花見の場所取りなんて新人がやるような仕事を、相変わらず山崎がやらされていた。
(まったく……まぁつまり仕事が無いって事だけどさ)
山崎が呑気に花見の場所取りなんぞしてると言う事は、つまり今は大きな事件が起こってないと言う事である。
そもそも真選組が花見が出来る事態平和である。
(しっかし、花見の場所取りなんて誰でもいーじゃん。カバディでもやってようかな……寒いし)
あ、でもひとりだった、と思い直し、それならミントンか、そう思いながら桜の木に背中を預けて座り上を仰いだ。
(うわぁ……)
月明かりに照らされて、桜の花が見事に空を覆っていた。
楽な仕事といえば楽ではあるが。
瞳を閉じて、山崎はため息をついた。
「土方さんのバカ……」
「誰がバカだって」
「てっ!」
突然頭をはたかれる。
驚いて抗議しようと顔を上げて固まった。
「土方さん……?」
「上司に向かってバカとは、てめぇ随分えらくなったな、よぉ」
「いだだだだっ!ちょ……!」
土方にガンガンと足げりをされる。
「っていうか、こんな夜中に何しに来たんですかっ」
「ああ?……いやな、別に」
そう言いながらコンビニの袋を山崎に渡すと、土方も桜の木に背中を預けて座った。
「?」
「差し入れだ」
「!えっ……」
山崎は袋をもったまま、じっと土方の方を見ている。
「……んだよ」
「いや、なんかオレ、ちょっと感動して」
「調子にのんな」
「たっ!」
土方は軽くまた山崎をはたくと、タバコに火をつけて煙をひとつはく。
「てめぇがさぼってねぇか見に来ただけだ。まあもしコレでまたミントンとかしてたら只じゃすまなかったけどな」
「は……はは……嫌だなぁ……いくらオレでもちゃんと学習してますよ」
言いながらも山崎は内心危なかったと思った。
「あ、コレ頂いてもいいですか?」
「ああ、冷めねぇうちに食っちまえよ」
袋の中には肉まんとホットコーヒー。
「うわぁっ!あざーす!」
熱々の肉まんを嬉しそうに山崎は取り出す、とふと気づいた。
「アレ?ひとつだけですか?」
「ん?んだよ、一個じゃ不満かよ」
「いえ、土方さん、自分の分は買ってないんですか?」
「ああ、……別に俺は腹減ってねぇし……」
「そうなんですか……じゃあ」
そう言うと山崎は肉まんを綺麗に二つに割った。
開くとさらに湯気がたちのぼり、なお一層おいしそうである。
「はい」
「?」
割った半分を土方へと差し出す。
「こんな美味いもん、オレだけ独り占めできません。だから、半分こ」
そう言って山崎はニコッと笑った。
「……山崎……」
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