ユウくん(仮)
□一話
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───グシャッ…
…その日はいつもより早く目が覚めた。
まるで、何かが落下したような…
いや、それだけでは済まずに勢い余って「埋まった」とでもいうかのような鈍い音がしたから。
「……」
俺は暗い部屋の中、いったんため息をついてゆっくりと半身を起こした。
瞬間、じわじわと嫌な気分が染みてくるのは無理矢理眠りを妨げられたからやない。
多分、外で何があったんか漠然と察しがついとるからや。
(…また、か…?)
*ユウくん(仮)*
カーテンを開ける。
シャーッと流れる音と同時に届いた朝の日差しが眩しくて、目を細めた。
それからまばたきを一回した後に、改めて庭を見る。
…そこには、俺が予想していた通りの人物がおった。
俺の家の花壇には、
どう見ても、人が刺さってた。
*****
『…では、続いてプログラム3番、生徒会長のあいさつです』
体育館に司会役の女子生徒の声が反響する。
時間は遡って、入学式。
「はあ…」
俺はため息をついて背もたれに寄りかかった。
(退屈やな〜早く終わらんかな〜…)
思わず欠伸をする。あふ、と喉が鳴った。
春眠、暁を覚えず…
体育館の両側の窓からは暖かい光がこぼれて、桜並木の影を床に映しとる。
その陽気の心地がいい事といったらない。
(…あー、もう限界や)
環境も手伝ってどんどん加速する睡魔の猛攻に、今だけは話を聞いているフリを諦めようと、俺が大きく口を開けた瞬間。
ふと、前を見た。
俺の前には女の子が座っとった。
姿勢がよくて、色が白い。
長い栗色の髪が綺麗やな…
とまあ、それだけの事やったから、俺はすぐに視線を落とした。
……ん?
そしてある違和感に気付いて、はじかれるように顔をあげた。
…コイツ、さっき坊主頭やなかったか?
さっきまでの体育館を思い出してみる。
………。
うん、やっぱり俺の前にいたのは男やった。
マテマテマテ、なんでいきなりヅラ被っとんねん、コイツ。
周りの生徒を目だけで見渡すも、誰も顔色一つ変えとらん。
…まあ、こういう不測の事態にモブが気付かないのはお約束だとしても。
「あ、いけない…」
すると、視界の端で声がした。
ちらりと半眼をよこしてみると…奴の髪がズレテイタ!
*******
時は流れて、二時間後。
ザワザワと騒がしい教室を抜け出して、俺は屋上でひたすらぼーっとしとった。
どうせHRの後は自由参加の校内見学らしいし、別に俺がいなくても平気やろ。
……。
俺は黙って空を見上げた。
ええ天気や。
入学式の時も思ったけれども、しみじみ再認識してまうな。
「…ふうーっ」
とりあえず、一息つく。
こう、好い天気の日に何も考えないでいるのはものごっつ気持ちええ。
…こんな陽気の事をどう言うんやったか。
暖かくて、麗らかな…
「小春よっ」
そうそう、まさしく小春日和や…
……ってオィイ?!
突然かけられた声は、上から聞こえてきた。
「誰や…?!」
立ち上がって貯水タンクの方を振り仰ぐと、小さな影が仁王立ちしているのが見えた。
しばらくそれを呆然と眺めていると、
「とーぅっ」
と、語尾にハートがつきそうな掛け声がしてから人形…いや、人間が落ちてきた。
そいつはゆっくり下降してくる。
さながら天空の城ラ◯ュタの◯ータのようにふわふわと、もたもたと…
…とてもやないが受け止める気にはなれへん。
とんっ。
そんな俺の考えに反して、奴は自分の足で華麗に着地した。
それから、こっちに駆け寄って俺の右手を両手で握り、上目遣いで俺を見つめる。
「そういうワケだから、これからよろしくね♪」
「…はあ?」
舞い降りて来たのは、おそらくこの学校の男子生徒?やった。
語尾が半疑問系なのは、そいつが三十路と言っても通じるくらいの極度の老け顔やったから。
それはどうでもええけど、その不可解な自己紹介は何や。
「そういうワケだから」の意味が俺にはわからん。
……どうやらお約束の展開は、見事にその役割を果たしたらしい。
認めたくはないが、とにかくこれが、俺と奴との出会いやった。
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