ユウくん(仮)
□三話
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休み時間の教室。
相変わらず騒がしい中で、俺は一人席についとった。
頭の中ではずっと昨日の落ちゲーの連鎖を考えている。
あの兄の強さは人間やない。
何度やっても勝てなかった。
さて、どないな戦略を立てたらええやろか…
サッカーゲームなら勝てるんやけどな。
*ユウくん(仮)*
「…ふう」
意味もなくため息をついてみると、俺の頬のあたりをどこからともなく風が掠めていった。
妙に温かい。
…またこのネタか。
毎回懲りずにようやるわ…
「風(ふう)」
今度は俺が振り返る前に、奴の方からストンと俺の前に落ちてきた。
コイツ…天井に張り付いてたんか?
「うふふっ、アタシを呼んだわね?」
笑顔の奴。
「呼んでへん。むしろ逆や、逆」
出来るだけ嫌悪を露にして答える。
笑顔は苦手だが睨みつけるのは得意なほうやからな。
「…そんな、アタシを求めんといてっ」
奴は自分で自分を抱きしめながらそう言った。
うねうねと…くねくねと…気持ちが悪い。
「…また喰らいたいんか?」
左の拳に力をこめる。
主砲発射準備80%完了。
「暴力はあかんで、ユウくん」
すると、奴は俺の左手にそっと手を置いた。
「…うっさいわ、俺はお前のせいであらぬ噂をたてられとんねん!一部の女子はキャッとか言いながら指の隙間で見てたりしとるし…」
「それはまた、随分具体的な話やねえ」
他人事のように目を見張る奴。
…何をあっけらかんと。
俺はたまらずツッコんだ。
「せやからお前のせいや!…大体いっつもベタベタしよって、ホモかっちゅーねん」
言いながら、さっそく俺の背後から抱き着こうとする奴に裏拳を放つ。
が、またしても奴はその攻撃を首だけで避けた。
「あら、ホモだなんて…そんな下劣な言葉でアタシたちを表さないで頂戴!」
ホモって下劣な言葉やったんか…?
あと、「アタシたち」って何やねん。
俺を変態と括らんといてほしい。
「…ああそうかい、悪かったな」
俺は軽く流したつもりだった、が。
「ふっ、よくぞ聞いてくれたわね」
「聞いてへんわ!!」
思わず勢いよく立ち上がってしまう。
そして、教室に響き渡った俺の声は完全に無視された。
「そう!アタシたちを表す言葉、それは…愛。愛なんや!!」
「……どういうことや、それはっ」
…奴は俺の話をまったく聞いてへん。
自分の世界に入り込んどる。
俺は今度こそ奴を容赦なく睨みつけた。
「…初対面の奴に愛を語られてたまるか」
奴の求愛にそう返して、俺は眉をしかめながらもう一度椅子に座る。
「…あらら、冷たあい…」
「…お〜?モノマネ王子様がおるでえ?」
「うっそ、どこどこ?」
そのとき、教室の入口から声がした。
「……!」
瞬間、背筋に冷たいものが走る。
それが誰に呼びかけられたのか俺には十分すぎるほどわかってた。
嫌でも覚えている、この声。
……何で、あいつらがここに?
戸惑う奴の傍らで、俺は手を強く握りしめる。
声の主は、金髪と眉なしの二人組。
悪いことに、揃ってこっちにどかどかと近づいてきた。
「久しぶりやんか、お前も四天宝寺来たんか〜?一氏クン」
「……」
俺は黙ったまんまで相手を睨みつけた。
さっき奴に向けた視線の比やない。
俺の中にある憎悪そのものをぶつけてやった。
「何やその目?反抗的になったなあ…こりゃ昔みたいに痛い目みてもらわなアカンかな?」
「…おお、そんなモンいくらでも受けたるわ」
一瞬で緊張する教室内の空気。
「……やめてっ!!アタシのために争わないで!」
…は、同じく一瞬で破られた。
「「…は??」」
思わず三人で振り向く。
そこにいたのは、制服からしてこの学校の女子生徒…やないな。
身長170pの女子なんて四天宝寺にはおらん。
「……お前えええ!!!ここふざける所ちゃうど!!!??」
俺は状況も忘れて奴につかみかかり、思いきり揺さぶった。
突っ込み症の性や…
「あ〜ん、そんなに激しくせんといて〜」
「あ、喘ぐなや気色悪い!」
不良二人組そっちのけで盛り上がる俺たち。
もはや漫才。
「おいコラァ!!いきなり何やオドレは…」
金髪が大声で凄んできた。
が、奴の外界シャットアウト機能(と名付けた)はそんなもんで破れるわけがない。
「ユウく〜ん、ちゃんと夜まで待っててね?」
「せやからそういう誤解を生む発言はヤメロ!!」
「おい…」
「やだわあ、みんなに見せつけるつもり〜?」
「ふ ざ け る な!!」
「………」
取り残された(?)金髪。
そしてすっかり自分の世界に浸る俺たちについに痺れを切らせたらしく、眉なしの方が俺の胸倉を掴んできた。
「…このやろ、何無視しとんねん!!」
そう言って殴りかかろうと拳を振りかぶった。
「……!」
反射的に目をつぶる。
その時、こんな声が聞こえた。
「…オンドリャ、ユウくんに何さらしとんじゃああああ!!!」
側 頭 部 に 激 痛。
そして、俺は意識を失った。
後のクラスメートによる証言
注:プライバシー保護のため顔と音声は変えています。
「いやー、なんていうんあれ?ドロップキック?
まいったわ、あのオカマくんがあんな大技出したんやから。
綺麗に後頭部に決まってんのな!
そのうえソイツが一氏に突っ込んでしもて、なんや妙なコンボやったなぁ!あっははははは
とにかくあの時ボクは奴を「男」やと認めたで☆」
*******
…うーん…
…うんん…
「…ユウくん」
「うわあっ?!」
俺は腕を振り回しながら跳び起きた。
「あ、起きたっ」
「大丈夫か?」
「…は、あ」
奴が上から覗きこんでくる。
その周りには保健委員らしき生徒がちらほら。
……あれ、いつの間に保健室に寝てたんや?
「もう大丈夫やで、あいつらはアタシがやっつけたったから」
「やっつけ…?」
あいつら、っちゅーんはあの不良たちの事やろか。
という事は、俺はその討伐のとばっちりを受けたわけか。
奴に助けられるとは、不覚やった…
「っ…!」
ズキズキと頭が痛む。
…畜生っ!あの眉なしめ、思いきり頭突きしよってからに…
「頭、痛むんか?一応冷やしといたんやけど」
銀髪の少年が寝ている俺の隣にしゃがみこんできた。
シャツを見ると、保健委員の腕章をつけている。
「頭の怪我は健康に支障が出る可能性があるからな。しばらくは寝とったほうがエエで」
「お、おおきに…」
親身になってくれるのは嬉しいが、俺は彼の腕に巻いてある包帯の方が気になった。
なんや、第三の目でも隠れてるんかその手には…
「ね、ユウくん」
「…何や?手を握るな」
俺が彼の腕に気をとられていると、奴が心配そうに声をかけてきた。
しかし突っ込みは忘れない。
奴の応対にもだいぶ慣れてきたな。
「さっきの人たちは何なん?ユウくんの知り合い?」
「…ああ、アイツらか…」
まあ、当然出てくる質問やろな。
俺はたっぷり一秒、目を閉じて、また開いた。
…あれはいつの事やったかな。
気は進まないが、説明したろうか。
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