ユウくん(仮)

□四話
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授業開始のチャイムが鳴って数分たった。


もう大半の生徒は自分のクラスに帰ってしまったけど、俺は包帯クンに放課後までの安静を言い渡されベットに横たわっとった。



…そして、隣には奴が座っている。



いつもなら蹴飛ばしてでも追い出すところやけど、今回ばかりは俺の方から残っていてくれと頼んだ。


俺の昔の話を聞かせるために。








*ユウくん(仮)*








正直、長く喋んのは苦手やし恥ずかしいけど…なんか、奴には話しとかなアカン気がするから。



「……あいつらは、俺が初めて負けた相手やねん」


「負けた…?」


「俺、小学生の時は、よくモノマネとかしとってな」



奴の疑問にあえて答えないまま話を続ける。



「毎日、その技磨いて披露して…結構乗ってたんやけど」



それで、俺のモノマネ芸はテレビ局から話が来るくらいの呼び物になった。


……が、多分それがよくなかった。


ある日、俺は違うクラスの生徒数人に呼び出された。

内容はよくある"シメ"っちゅーヤツで。



「ほんで絡まれて、お前だけ目立っとるんは腹立つ〜…ってどないやねんな」



言ってから少しだけ笑う。


…とりあえず、そいつらはなんかで観た格闘技の「モノマネ」で一掃しておいた。



「まあ、会得できるんが声や動きだけやないのが俺の特徴やからな。楽勝やったわ」






…ここで、俺は一番嫌な記憶にたどり着いたらしい。


いつの間にか眉をしかめてた。



「せやけど、その結果が…」


「……不良グループからの復讐?」



ピタリ、その通り…と頷く。



「…ええとこまで行ったんやけどな〜、奴らめっちゃ汚いねん」


「………」


「俺にケンカでかなわんのがわかった途端に女子を人質にとりよった。そら、勝てるわけないわ」


「………ユウくん」



奴が俺の名前を呟いた。



「……ま、その後もいろいろあったから、中学はわざわざ家から遠い学校選んだんやけど…」



くしゃ、とシーツを握る。


俺は、軽くため息をついてうなだれた。



「まさか、あいつらまで四天宝寺来てるなんてなあ…」



…アカン、何泣き言いっとんねん俺、カッコ悪。





「………」



奴は黙って俺の話を聞いていた。

そして、しばらくしてから口を開く。



「…なーんや、そういうわけやったんか」



言ってから、奴は身を乗り出して俺の顔を両手で挟んできた。



「いっ…?!」


「それで得意のモノマネ封じて、目立たないように生活しようっていうん?」


「……は、」



離せ、とは言えんかった。

奴は依然として拗ねたような顔でこっちを見つめてくる。



「もう、そんなんで解決するわけないやんか!ユウくん、悔しいやろ?!」


「……!」




「…アタシは、そんなん許さへん。ユウくんだって、それが本当に良いのかはわかってるはずやで」



奴がぱっ、と手を離す。



俺は、開放された後もひたすら目を丸くしていた。


なんか、動かれへんかったから。奴があんまり真っ直ぐ俺を見たから。


ただ、気付いたら俺は奴の諭すような言葉に答えとった。



「……せやな…」



…こいつ、普段は変態で変態で変態やけど…


言うときはちゃんと言う奴やったんか…


俺は、奴を誤解してたのかもしれん。



「…おおきに」



いつもと立場逆転したみたいでシャクやけど、とりあえず一言だけ呟いた。



「……ん!わかったら早速…」



奴が鞄をごそごそ探り出しす。


そしてそこから半分覗いたモノ。



黒くて、発射口があって、グリップのついた……





?!





「…あ、あらコレじゃなかったわ」



奴はものすごく曖昧な笑顔でそれを鞄に戻した。



「……ってオイ!!それ!!」


「だって、今から奴らを殺りに行くんやろ?」


「はあ?!」



奴が勇んで立ち上がる。


その姿はむしろ生き生きして見えた…



「うふふふふ、ユウくんを貶め、辱めたその罪は重いわよ…!必ず牢獄にぶち込んだるわ」


「い…いやいやいや、何もそこまでやな…」



言いかけた俺の言葉に重なって、打倒不良組〜!という奴の声が保健室いっぱいに響く。






───信じた俺が馬鹿だった…






何のフレーズか忘れたが…なるほど、こういう事なんやな…



俺は、戦意を燃やしている奴の後ろでただただ呆然としていた。










…でもなんか、これでいつも通りやな。



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