ユウくん(仮)
□五話
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「ももいーろーの片思ーいーキッスしてーる…」
昼休み、ここは屋上。
…いや、屋上には鍵閉まってて入れんかったから正確には屋上扉正面の階段の踊り場。
俺は階段のてっぺんに腰掛けてのん気に鼻歌を口ずさんでいた。
外は晴れていて明るいけれど、ここは静かで幾分か薄暗く涼しい。
俺のモノマネ以外の趣味である、漫才用の小道具作りにも集中できるわけや。
実は、これで結構出来には自信がある。
まあ、相方はいないけどな…
……さて、これで一段落と。
*ユウくん(仮)*
「…あー、疲れたー」
ぽつりと呟いてから、俺は軽く周りを見渡した。
…警戒せな、いつ奴が出てくるかわからんからな。
「……?」
しかし、予想外にも奴の姿はおろか声すら聞こえなかった。
…おお、これはやっと開放されたということか。
自分に祝福の拍手を送ろう、ぱちぱちぱち。
清涼感から、ふっと上を仰ぐ。
そして覚える違和感。
「ぶいっ☆」
……天井にいらっしゃったーーーー??!!!
「とうっ」
上方から垂直に飛び降り、華麗に着地する奴。
い、いつからおったんや…
「ふふ…全て立ち聞き…いえ、張り付き聞き?させてもらったわよ!」
「…俺は何一つ言うてへんけどな?」
落胆からか突っ込みのキレも悪くなってくる。
「…ユウくん、アタシが来るの期待したでしょ?」
「…そんなん有り得へんやろ!アホか!」
瞬時に手が飛び出す。
最近、台詞まわしがやや漫才めいてきたのは気のせいと思いたい。
そのうち、「君とはやってられへんわ」的お約束を言わされる羽目になるかもわからん。考えるだけでもぞっとする。
「もう、強がっちゃって…あ、そうだ」
奴がぽん、と手をあわせた。
「じゃーん、コレ♪」
そう言って奴が手にしたのは、緑色した布…バンダナ?やった。
「な、なんやこれ…」
「ユウくん専用バンダナよ。作ってきたから着けてねっ」
「俺に…?」
奴からバンダナを受け取る。
そうか……
俺のために…なんや、うれしいことしてくれるやんか…
(…って、ちゃうちゃう!!)
そこで、ハッと我に返った。
何が『そうか……』や。
なにちょっと喜んどんねん自分。
「どう?気に入ったかしら?」
相変わらずニコニコしている奴を見る。
…まさか、まさかこれは。
…俺が奴に懐柔されてきているのか…?!
確かに、考えてみたらさっき奴が天井から降りてきた事をスルーした自分がいる。
…もしかしてこの前の保健室の件で、俺は奴に感化されて、染まってしまったんか?
いやいやいや、ありえへん。断じて。
まだ人間はやめたない…
…なんか、若干12歳でストレス死しそうや、俺。
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