ユウくん(仮)

□七話
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…もはやお約束、昼休みの教室。

また俺は机に肘をついてぼーっとしていた。



…最近思うねんけど、何で俺は休み時間に一人でいる日があるんやろ…



友達だって四月の時点でいない訳やないし、連れには事欠かんはずやのに。


つれ、連れか…



……ん?



…今思った。そういえば、こんな日は必ずもう一つ何かが起こる。

俺が耳をすました瞬間聞こえてくる、確実に近付く足音。もう嫌な予感しかせえへん。








*ユウくん(仮)*








「…お、おったおった」



やっぱし来よった……って、アラ?

そこにいたのは、奴ではない男子生徒やった。

えーっと、確か…この前の保健委員の。



「ああ、包…」


「…ほう?」



…帯クン、と口に出しそうになって、慌てて小さく首を振った。

で、訝しがりながらも、彼はそのまま近付いてきた。

それから俺のいっこ前の席に腰を降ろして、今日もそのあだ名に恥じない左腕を椅子の背もたれに引っかける。




おお…改めて近くで見ると、えらい男前やなあ…




そんな風にまじまじと見ていると、目が合った。

包帯クンは、目が合いついでに爽やかにニコリと笑って。






「頭大丈夫か?一氏くん」


「は、はいっ?」





思わず声が裏返る。

…コイツ、笑顔でなんちゅー恐ろしい台詞を。

俺が目を見開くと、包帯クンの頭の上に「?」マークが浮かんだ。

が、次には何かに気付いたような顔をして、小さく吹き出した。



「…頭の怪我は怖い言うたやんか。保健委員の事後調査に来たんやけど」


「あ、ああ、そういう事か…」



俺の方も理解。



「で…その後は問題ないか?」


「ん、平気やで」



俺が頷くと、包帯クンはほっ、と胸を撫で下ろした。



「ならよかったわ、これから中間テストやら体育祭やら控えてるしな。遊びに学びに励むためには健康が第一やから」



ぽん、と肩を叩かれる。




……な、何やこの「普通の会話」の安心感は…




いっそこの包帯クンをオアシスに保健室に通うのもええかも…なんて考えてしまう。



「…そういや、そのバンダナどないしたん?めっちゃ似合うとるやん」


「へ?」



ふっ、と頭を指さされる。

あ、思い出した。俺、奴が作ったバンダナを被ってきたんやった。

これまた遅い説明で申し訳ない。

しかし、まさかほめられるとは…



「ああ、作ってもろうたヤツやけど…そう言うてもらえると嬉しいわ」



と、素直に答える。



「ふーん、ええなあ…もうそんな子がおるんや」



ん?


頬杖をつき、からかうような笑顔で俺を見る包帯クン。

…アカン、何か勘違いさせてしまったらしい。

恐らく、包帯クンは俺が女の子にバンダナをもらったと…



「や、ちゃうねん、これ作ったんは…」




「ユーウーくーん!アタシが作ったバンダナ着けてくれてる〜?」





……来たな。またしても都合よく。


ホンマもんの地雷め。




「…おーおー、着けとるわ!これで満足か!」



睨みつけながらそう返す。

すると奴はキャッ(はぁと)と言いながら両手で顔を覆っとった。

ホンマに、一般人の前でそういう演出は誤解を招くから心底ご遠慮願いたいが。



「んー、うれしっ!…アラ?」



そこで、奴の視線が俺の隣に向けられた。



「そこの人はこの前の、包…」


「ほ…?」



奴が何か言いかけて、首を横に振った。



「ほ、ほ…健委員のええ男やんか」


「…あ、白石言います。よろしゅう」



慌てて言葉を探した奴にペコリ、と笑顔で会釈する包た…白石くん。


…初めて俺と奴以外の名前が出てきたな。


しかも第七話目にして。



「はあい、よろしく……はっ、ユウくんまさか、浮気…!殺すわよ?!」


「ダ マ レ」



俺はため息をついて、手短に応じた。

……せっかく、さっきまで普通に中学生しとったのに。

奴が入った途端にフォントサイズ…もとい声量が飛躍的に大きくなってしもたやんか。



「…ま、ええわ。あのねユウくん、今度また校長先生のお笑いライブがあるんやって」


「…はあ?」



つい口調も荒くなる。

そもそもこうやってよく叫ぶようになったり、最近小道具やってなかなか作る暇がなかったり…

何より、俺がこのペースにはめられてるのが問題なんや。



「で、先行チケット二枚とったから…」



奴が来てからいろいろ有りすぎて訳もわからず付き合うて来たけど…




「…………」




うん、今白石くんと話しててわかった。










俺はまだ普通の世界に帰れるんや。



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