ユウくん(仮)
□九話
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「好きですっ」
ああ…これは。
やっと俺にも春がやってきたんか…
……いや、マテ。何かおかしい。
とかなんとか思っているうちにその可愛い顔はだんだんと変形して奴の顔に…
「う、嘘やっ!!」
ガタンッ!
俺がそう叫んだ直後、ざわっ、という音が聞こえてくる。
「ん…?」
ふと我に帰って周りを見る。ここは、教室?
*ユウくん(仮)*
…ただいま水曜日の五限目、総合学習。
目線が高いっちゅーことは、俺は跳び起きる通り越して立ち上がってしもたんか。なんてしみじみ考える。
…が、そうぼんやりはしておれんな。
慌てて椅子に腰を下ろす。
「…一氏?」
「は、はいっ」
教科担任…確か、オサムちゃんとかいう…が据えた目線をこっちに向けてきた。
俺は顔を引きつらせる。
「チャイム鳴ったっちゅーのに居眠りとは、ええ度胸やのお」
「すんまへん…」
ばん!!
「!?」
俺が謝るや否や大きく教卓が鳴った。というか、オサムちゃんがぶっ叩いた。
クラスメイトも全員が一瞬身じろぐ。
「…ま、仕方あらへんな」
「へ……」
…てっきり怒鳴られると思ったが、オサムちゃんはあっさりそう言った。
「じゃ、出席とるで〜」
オサムちゃんが名簿でとんとん机を叩く。
ああ、まだ出席前やったんか。
なるほど…怒られへんのも当たり前やな。
「あ〜池田…池田はおるか?」
「池田くんならさっき保健室に行っちゃいましたー」
クラスメートに誰かがそう言った。
えーと、池田…あの不良の眉なしの方か。
合同授業やからコイツとも一緒のクラスなんやな…
なんて、気にすることでもないので俺はぼーっとしていた。
…なにより、昨日から気分が最悪やねん。
今日は何故か奴も姿を見せんし…
ええい、調子が狂う。
人知れず苛つく俺に構わずオサムちゃんは呑気に名簿にチェックをつけていた。
「ぇ〜次は金色〜次は〜こんじきぃ〜」
…なんか駅名みたいな苗字のヤツやな。
オサムちゃんも駅名の如く呼んどるし。
「先生、金色くんなら具合悪いって言ってどっか行きました」
…金色って奴のことか!!
「しゃーないな〜…じゃあ一氏、ちょっと探してこい」
「なんでやねん!むしろ放っておいた方が平和…」
するとオサムちゃんは奴のように大袈裟にため息をついた。
「だってお前、オモシロ探索委員やろ」
「関係あらへんやろ!!」
俺が突っ込むと、オサムちゃんはまたため息をついた。
「面倒やなあ…ほな、えーと白石。一緒に探して来い」
「よっしゃ、合点承知!」
こらこら、勝手に承諾するな。
「んじゃ、授業は通常通り運行されるからな〜」
運行って…電車やん。
とまあ、そういう訳で俺達は奴を捜すことになった。
*****
「…つってもな〜、どこにおるんやろな?金色くんは」
廊下を歩きながら白石くんがそう言った。
「せやなあ…女子トイレ、女子更衣室とか」
「…随分極端やな」
まあ、変態のイメージがあるしな。
とりあえず俺達は保健室の前までそのまま歩いてった。(女子更衣室及びトイレは覗かなかった。)
そして、まさに保健室の手前を通りかかった時。
「…この野郎!!この前はよくもやってくれたな!?」
「??!!」
突如廊下に響いた怒号。
俺と白石くんは一瞬肩を震わせて立ち止まった。
――ドガッ!!
間髪入れずに乱暴な音がした。
反射的に扉の隣あたりにしゃがみ込む。
「お前…絶対許さんからな!!」
「…あら〜、物騒ねえ。二人とも怖あい」
「……!!!」
このナヨナヨした声は…
「…奴か!?」
声を潜めてそう呟く。
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