ユウくん(仮)
□十話
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奴を探しに出たら、とんでもない場面に遭遇してしもた。
…あの不良ども、今度は何をするつもりなのか。
俺は白石くんと扉の窓から様子をうかがった。
*ユウくん(仮)*
保健室の中には予想通り、金髪と眉なし池田の二人と奴がおった。
奥まった場所で、二人がさらにいちゃもんをつけとるらしい声がする。
「…もお…か弱い男の子を囲むなんてよくないわよ、メッ」
それに対して、奴は相変わらずの口調で不良どもを翻弄してる。
…ただ、いつもと違うんは…奴がいつまで経っても手を出さん事やった。
おかしい。何でや…?
「…っお前、ええ加減にせえよ!!」
「あっ…?!」
奴が胸倉を掴まれた。白石くんが小さく叫ぶ。
「…一氏くん。俺、ちょっと先生呼んでくる」
さすがにまずいと思ったのか、白石くんがそう呟いた。
俺も黙って頷く。
「…すぐ戻るわ」
そう言って音を立てず走っていく白石くんを見送ると、保健室に目を戻した。
その間にも、暴力沙汰にならんように張っておかな。
白石くんはきっとわかっとらんけど、今絶体絶命なのはあの不良どもや。
奴も今はナヨナヨかわしとるけどいつキレるか解らん…
ん。
待てよ?
『…オンドリャ、ユウくんに何さらしとんじゃああああ!!!』
『今から殺りに行くんやろ?…うふふふふ、ユウくんを貶め、辱めたその罪は重いわよ…!』
…そういえば、奴はいつでも俺の悪口を聞いたり、俺に危害を加えられた時にキレとった(多分)。
逆に言えば俺になんか無ければ奴は手をあげない、イコール全てが平和に終わるわけで…
「…おい、モノマネ王子様に助けて〜って叫んでみるか?馬の真似して来るかもな!」
なんや、結構あっさり解決やったな…って池田さーーーん?!
「…ハハハ!けど前は逆に一氏が助けられてたやん!情けねーっ」
畳み掛けるように金髪。
ぴく、と奴のこめかみに嫌な線が走る。
俺は思わず頭を抱えた。
……けど、渦巻く笑い声の中、奴は一向に動く気配を見せんかった。
………?
やっぱり今日の奴は何かがおかしい。
ふと、奴の手もとに目をやる。
「……絆創膏?」
ユウくん専用バンダナ。作ってきたから着けてねっ
アタシが作ったバンダナ、着けてくれてる〜?
──ヤツの手、絆創膏だらけやったで。
そこで俺はハッとした。
もしかして、手が痛くて…?!
「……黙っとらんと、何か言えや!!」
ドンッ!
奴が金髪に持ち上げられて壁に叩きつけられた。
手を庇うように倒れ込む奴。
その顔は痛みに歪んでいる…ような喘いでいるような。
けど…そうや。
よく考えたら奴をこんな事に巻き込んだんは、俺や。
俺のためにバンダナなんて作らなければ。
俺があいつらの話なんかしなければ。
―――俺と奴が、出会わなかったら。
こんな事にはならんかったはずや。
ゴクリ、と唾を飲む。
普通の生活に戻りたい、迷惑やなんて言って…
今、奴の「普通の生活」を壊しとんのは俺やないか…!
俺は、ふっ切るように顔をあげた。
暴力沙汰にならなければとか、先生たちが駆け付けてくればとかの問題やない。
これは、俺が自分で解決せなアカンのや。
…すううぅっ…
俺は息を吸い込んだ。
…久しぶりやけど、しゃーない。
結局、俺にはこれしか思いつくモンがなかったんや。
ちゃんとあいつらの耳元に届くように思いきり…
「……おいコラァ!!お前ら何しとんねん!!」
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