ユウくん(仮)
□十一話
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俺はそう叫んだ後、2、3回肩で息をした。
扉の窓に乗り出すと、不良どもは目に見えて焦りだしとる。
よし、あとちょっと……
*ユウくん(仮)*
「おい池田、この声…奴ちゃうか…?」
「ま、さか…ここに"あの"鬼ゲンがおるわけ…」
不安げに話し出す奴らにさらに揺さぶりをかける。
「コラア!!ガキども、どこにおんのや!?」
「ひぃぃっ!!」
さっきよりドスのきいた声で叫ぶと、池田の方があからさまにビビっとった。
思わず内心でほくそ笑む。
「…ヤ、ヤベェ!逃げろ!!」
「畜生、次は覚えてろよっ!!」
情けない声をあげながら、なんともあっさり奴らは窓から逃げてった。
それを確認してから、俺は保健室の扉をガラガラと開ける。
中には傷つき倒れた奴がおった。
けど、俺は入り口で立ち止まったままで。
「…ユウ、くん…?」
しばらく見つめ合ったあとで、奴がやっと口を開いた。
「………」
俺は黙ってた。
勢いで駆けてきたはええけど、何て声をかけたら良いのかわからんかったから。
…アカン、静かにしてたら俺、泣きそう。
仁王立ちしながら泣きそうや。
だって、もし奴らが逃げてくれなかったらとか、声が出なかったらとか…正直怖かったし。
今やっと足が震え出した。
けど…俺は不安でいっぱいやったけど。
「……よかった…」
「え…?」
お前が助かって、嬉しかったんやで。
ぎゅう、と奴を抱きしめた腕に力を込める。
「あ、愛が痛いわぁ、ユウくん…」
「アホ。心配かけた方が悪いっちゅーねん」
そう言いながら、頬には涙が一筋伝っとった。
緊張からか、安心からなのか…奴には絶対に見せられんな。
「昨日は、スマンかった…あれ、全部嘘やから…」
毎度おなじみの情けない声で、そう呟く。
「…うん。おおきに、ユウくん」
肩越しに奴が優しく言った。
…ふと、遠くで誰かが走る足音が聞こえてくる。
やっとこ先生たちが来たんやろか。
「…ね、今度はホンマに見せつける?」
「?!」
奴がおどけてそう言った。
慌てて俺は奴から身を離す。
「…何や、ソレ…」
ぶちゅっ。
俺の突っ込みが終わらないうちに顔に何か掛かった。
粘性の何か…しかも変な味がする…甘い…
「特製スープ。お気に召したかしら?」
「………」
すっかり元通りの奴に、思わず唇を噛んだ。人がちょっと感傷に浸るとすぐこれや。
「…いや、何でもない…」
力なく奴の肩に手を乗せた。
…まあ、ええかな。こんな終わり方でも…。
二人で笑いながら、それが今日思ったことやった。
さて、まずはティッシュを…
*****終わり?