ユウくん(仮)
□十二話
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突然聞こえてきた怒鳴り声には、なんだか覚えがあった。
これは、何やったかしら…?
すっごく昔の事みたいな気がするんやけども。
……ああ。思い出した。
*ユウくん(仮)〜Another〜*
あの時アタシは小学生で、いつもみたいに女の子の真似をして公園で遊んでた。
『小春ちゃん、ホンマに可愛いわね』
なんて言われて。自分でも、女の子そっくりだと思った。
けど、そのせいであんな事件が起きたわ…
気がつけばアタシは知らない学校の男の子二人に捕まってた。
二人は体も大きくて、強そうで…遠巻きには池田と金髪クンがにやにやそれを見ていたんや。
『一氏、土下座しろ』
『豚の真似でもしたら許したるわ』
なんて、笑い声の中で汚い野次がとんだ。
アタシの目の前におった男の子はすごく悔しそうな顔をして、震えてて。
(…なんなのコイツら、頭悪…)
アタシには頭の中で悪態をつくくらいしか出来なかった。だから、何も助けてあげられなかった。
それで、そんな最中の事。
『おいお前ら、何しとんのや!!』
『!!??』
突然怒声が響いて地面を揺らした。
…声の主は近所でも有名な、怖い管理人さんやった。
通称『鬼ゲン』というそのオジサマは瞬く間に不良の子達をすくませて、追い払った。
…なんだかその時の感じに似てる、なんて頭の隅っこでぼーっと思った。
今まで忘れてたけど、もしかしてあの男の子。
あの時、アタシの目の前で悔し涙を浮かべていた、あの男の子は……
視界が明るくなった。保健室の扉から見える人影に目をこらす。
「…ユウ、くん…?」
ああやっぱり。君やったんか。
息を切らして、ちょっと必死な目をしてる。
今は興奮状態みたいやけど、あんなに酷い事件を思い出すモノマネに挑戦するの…怖かったはずやで。
勇気を振り絞って来てくれたんや。
「…あ、愛が痛いわぁ、ユウくん…」
「アホ。心配かけた方が悪いっちゅーねん」
きっと、今も震えてるわね…
…気付かないフリ、出来るかしら?
うん。きっと出来る…だってユウくんは王子様やもん。
絶対泣かない、アタシの王子様。
頑張ってくれたお礼は、ちゃんとするからね…
遠くに足音を聞きながら、アタシはポケットの中で水鉄砲のグリップを握りしめた。
*****
前回と対になる感じで…
実はあの人質になった女の子は女装小春だったという!