ユウくん(仮)
□十三話
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事件から+5日――
月曜日。
あれから事情聴取やら何やらで毎日朝一番に来てたから、久しぶりの定時の登校やった。
後で聞いた話だと、不良どもは俺達の証言で犯行がばれて謹慎しとったらしい。
…これでホンマに一件落着、かな?
もう奴に手は出さへんやろ、うん。
校門をくぐる。
…そういえばあの日以来、俺の周りの景色は明らかに変わった。
頭上を仰ぐ。
『ユウくんおかえり☆』
『好きやで!』
『愛しとるで!』
………。
先週から校舎に垂れ下がってる段幕。
どれもこれも揃ってドピンクでキラキラ。
…誰の仕業かは、わかっとるんや。
俺は、思いきり息を吸い込んだ。
「…ええ加減に、外せーーーっ!!」
「あははははは!」
「一氏が本領発揮やでー!!」
俺の突っ込みは、生徒たちの歓声に飲まれていった…
*ユウくん(仮)*
俺は廊下を歩いてた。
向かう先は職員室。
今日は、奴とこの間話した「アレ」を持ってく所やねん。
「…おい、一氏」
「…?」
急に声をかけられた。
俺はちらっと目をよこして、ため息をつく。
「…またお前らか」
「またとは何や!ビビりのくせに!」
「せやで、モノマネ王子様あ〜」
相変わらずの調子にちょっとホッとするものの、今はこいつらなんか相手にしてられん。
「…お前ら、ワンパターンやなあ」
不良どもとすれ違ってから、ぽつりと呟いた。
「はあ…?!」
「なんやとコラ!!」
俺は振り返ってにやりと口を吊り上げた。
『ひぃぃっ』
「…あ…!!」
『…ヤ、ヤベェ!逃げろ!!』
「……!!」
あの時の奴らの声マネや。
二人はおもしろいように真っ赤になっとる。
俺は笑いながら奴らの後ろに歩き出す。
「ち、畜生!覚えてろよ!」
また同じよーな捨て台詞か、ザマアミロ。
これだからモノマネはやめられんわ。
「ユウジー!」
歩いていると、また俺を呼ぶ声がした。
「…おお、白石くんやないか!」
「久しぶりやな〜!」
俺たちはそう言って笑った。
「ユウジ、どこ行くん?」
「職員室や」
「ふーん。まあ頑張ってな!」
「…何をやねん」
「わからん」
白石くんは小さく微笑むと、そのまま教室に向かっていった。
こんなあっさりした会話も何だか楽しい。
ふと、俺はポケットに手を突っ込んだ。
かさりと軽い感触。少し心が躍った。
で、職員室前。人の入りは…普通。
俺は勢いよく扉を開けて中に入った。
…奴はもう来てるんかな。
「…お、一氏」
オサムちゃんの机を覗くと、誰もおらんかった。
何となくホッとする。
「…ユウくん、こっちこっち」
…ふいに肩を叩かれる。
後ろにいらっしゃった…!!
「なんやお前…もう来てたんか」
「だってワクワクしちゃって…ね、オサムちゃん?」
「おお、待ってたで」
にっとオサムちゃんが笑った。
「まさかお前ら二人でテニス部入部希望なんてな!」
カカカと笑うオサムちゃんにつられて俺も笑った。
…そう、奴に頼まれて一緒にテニス部に入ることにしたんや。
急すぎる気もしたけど、俺としては異存はなかった。
ただ、奴とならもうちょっとだけ付き合うのもええかもと思えるわけで…
「…じゃ、これ提出しますわ」
「へいへい、承知〜」
俺はポケットから入部届けを取り出して、奴と同時に提出した。
俺のくしゃくしゃな封筒と、奴のキレイなままの封筒が机に並ぶ。
「…頑張れよ、少年?」
職員室から出ようとした時、オサムちゃんがからかうように言った。
それに応えるようにいたずらっぽく言い返す。
「当たり前や!俺と、コイツなら…」
「…あ、ユウくん!」
と、そこで奴から訂正が入った。
せや。昨日、約束したもんな…若干照れるがしゃーない。
「俺と、小春やからな!」
俺たちは輝かんばかりに満面の笑みを浮かべて職員室を後にした。
…この先、また何が待ってるかわからんけど。
「ほな、行こか!」
──ま、何とかやってけるやろ。
今日から俺達、名コンビになれたらええな。
そんな希望を持って、俺と小春はテニス部の門を開けた。
***本当に終わり☆★