短編小説

□戻らない旅なら夜空から眺めさせて
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その時彼は笑って様に提出。






「…はい、ご苦労さまです」

「何偉そうに…ほら」



私が投げた缶コーヒーを片手で難なくキャッチすると、柳生は小さく笑う。



「…で、どうしたの。行き成り呼び出して」



私も芝生に座り込んでビニール袋からレモネードの缶を取り出し、プルタブを捻った。

プシッという音と共に白い湯気が濃紺の空に流れていく。



「別にいいじゃないですか」



コーヒーを一口、柳生は呟く。



「こんなに星が綺麗なんですから」



私は視線を泳がせた。

彼の言葉に導かれて空を仰ぐ気にはなれなかったから、この切り立った丘から正面をじっと見つめる。


目の前には自分の住む町。


夜空に似た色合いのそこから、車のエンジン音が聞こえた気がした。



「あー眠い」

「高校最後の冬ですよ」



私はちらりと柳生を盗み見る。



「…何が言いたいの?」

「随分と突っ掛かりますね」



柳生が肩を竦めた。

ごろりとカバンを枕に、空を独り占めにしようとするかのような体勢で、彼はにこにこと笑う。



「少しはぼんやりしたらどうです?人生は長いんですから」



風が吹く。冬の寒気をかすかに孕んだそれが、私の髪を揺らした。


ふふ。


小さく笑って、私もまた、今度は素直に空を見た。



「ぼんやり、かあ」

「そうです。ぼんやり」



言葉は短く。

柳生がわずかに顎を空に突き出す。



「向こうできっとそうしているはずですよ」



私も、少し考えて同じように顔を宙に向けた。

広がるように流れていく吐息が、空に届きそうにかすれ消えていく。



「あの人も、ぼんやりしてるのかなあ」

「元々そんな感じでしたから。そうかもしれませんね?」



クスクス。2人で笑った。



「私がそっち行ったら、案内してよー」



語りかけるように呟いてみる。



「その時は私も同伴で」



柳生の台詞に、私はげらげらと笑いころげた。



「団体でいく?」

「その方が彼も喜びそうですね。ああ見えて寂しがりでしたし」

「…みんなを見てるから、寂しくないよ。きっと」

「…では、是非とも冷やかしに行かせてもらいましょうか。……」



2年前の今日、あまりにも早く旅立ってしまった男を思い、私たちは空を仰ぐ。

流れていく白は線香代わりに。


私は無意識に宙に手を伸ばしていた。


空はまだ2人には遠く、高く見えた。








戻らないなら夜空から眺めさせて









旅立ったのは別に誰でもいいです。誰でも解釈できるようになってます…多分。
そしてまさかの高校生設定。

では、読んでくれてありがとうございました!

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