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□海の音をきかせてよ
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ジュデッカ会戦の前日。
初の実戦投入の緊張でどうにかなってしまいそうな私を
愛しい彼が外へ連れ出してくれた
「名前…テラスにいかないか?」



テラスは、決戦前の静けさなのか、誰もいなくて…
太陽の光に囲まれて、
静寂に包まれていた

遠く海の音がきこえるほどに



「エイトくん…」
私の隣で気持ちよさそうに柵から半身を乗り出しているきみは
私の消えそうな声でこっちを向いた

「どうした?」


「…。」

そんなつもりはないのに。
思わずだまってしまった

″こわいよ″、なんて…

いつも全身で困難に立ち向かっているきみに、
言えるわけがなくて。


「…名前?」

「…ごめん」


いやだよ。
もっと、もっと、ずっと一緒にいたいよ。
きみのことが大好きだから。

きみのことを…愛してるから。



言葉にできない思いがまぶたの裏だけにたまっていく
きみは困った顔をしていた

ごめんね…こんなつもりじゃなかったのに。



「名前。」

顔をあげたら、太陽の下で優しくほほえむきみがいた。
刹那、私はきみの腕の中へすっぽりとおさまる

「何の心配もしなくていい」
きみの声はとても心地よくて
「だって…」



「俺は、俺の愛してる奴を…名前を必ず守ってみせるから」


きみの手に力がはいる
決して大きくはないその身を精一杯使って、私を守ってくれるんだ。

私も力をいれてきみを抱きかえす
涙が止まらないよ。

心臓の鼓動も速く、大きくなっていく

ありがとう、ありがとう、ありがとう。



あぁ、だけど。
いつのまにか私の涙と心臓で波の音はきこえない

今、きこえないのなら。
戦いから帰ってきたら、もう一度…







海の音をきかせてよ










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