Long・Fatalism

□1st.Fatalism
1ページ/1ページ




それは、少しだけ昔のある日のこと。
世界を覆っていた霧が晴れて、何日か経った日のことでした。
とある商人の家族が南ゲートからリンドブルムへと荷馬車を走らせていました。
外の空は澄んでいて、昼は青空が、夜は星空がとても綺麗でした。

荷台には商品がたくさん入っていました。
父親は、このまま霧がずっとないのならこんな風に沢山の商品を運ぶことができる。
沢山の幸せをリンドブルム中の人に渡すことができるんだ、と笑顔で言いました。
母親と娘も笑顔で頷きました。
家族にとって商売とは幸せを分けることでした。
家族の身なりは決していいものではありませんでした。
けれど、お客さんが喜んでくれるならそれでいいと思っていました。

荷馬車を走らせて数日。
世界はまた霧に覆われてしまいました。
霧は人間にとっていいものではありませんでした。
家族を危険に晒したくなかった父親は夜も荷馬車を走らせました。
一刻もはやく霧のないところへ。
その想いだけで、父親は不眠不休で荷馬車を操り続けました。

リンドブルムまで間近に迫ったある日。
突然、父親の叫び声が聞こえました。
娘と母親は驚いて荷台から顔をのぞかせました。
父親のいるはずの場所には。
真っ赤なナイフを持った盗賊達が不吉な笑みを浮かべて立っていました。
母親は父親の名前を叫びました。
娘に、逃げろと言いました。
けれど娘の視線は父親らしきものと、盗賊をつかんで離しませんでした。
涙がはらはらと落ちました。
それから盗賊はナイフを再び掲げました。
次の瞬間、娘は天涯孤独になりました。
盗賊は笑いました。
足がすくんで動けない娘の方へ、ゆっくりと歩いていきました。

そのとき。
娘の頭の中で声が聞こえました。
そいつが憎いか、と。
娘は目の前の盗賊を見据えました。
彼は残酷な笑みを浮かべていました。
声はまた言いました。
憎いのなら復讐してしまえばいい、と。
私に任せなさい、と。
娘に躊躇いはありませんでした。
声に言われるがまま、娘は意識を手放しました。

しばらくして、娘は目を覚ましました。
空を見ても、霧ばかりで星空はありませんでした。
娘は上体を起こして辺りを見回しました。
そこにはたくさんの赤色が広がっていました。
動いている人は、娘以外いませんでした。
娘の目からは涙がこぼれました。
あとからあとから、こぼれました。
しばらくして、娘は歩いてリンドブルムまで帰りました。
数時間の距離でした。

それから。
娘の一人暮らしは始まりました。
両親からもらった商才を武器に、15歳の娘は必死に暮らしていきました。
ですが、おかしなことが起こり始めました。
娘と仲がいい人に次々と不幸が襲いかかるのです。
ある人は怪我。
ある人はトラブルに巻き込まれました。
娘は思いました。
私のせいかもしれない、と。
脳裏に霧の日の出来事がよぎりました。
きっと呪いがかかっているんだ。
私に関わった人を不幸にしてしまう呪いが。
これは、罰だ。
罪だ。
そう思いました。
そして娘は人と関わることをやめました。
一人で生きていくことを決めました。
涙は、もう出ませんでした。


Fatalism

(運命を信じますか?)





[目次]

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ