Long・Fatalism

□2nd.Encounter
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あの不思議な人に出会ってから数日。
ルートを変えたからか、ジタンさんには会っていない。
少しだけ寂しい気持ちがあるのは気のせいだってことにして、私はいつもの日常を始めていた。
はずなんだけど。
路地の向こうから歩いてきているあの人はジタンさんに違いなかった。
今日はもう売り切った空のワゴンを持って歩きだそうとしたけど、やっぱり声をかけられた。
「よっ、名前ちゃん。オレのこと覚えてる?」
ええ、覚えてますとも。
「ジタンさんですよね?」
「あたりっ!」
こんにちは、と挨拶すればジタンさんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いきなりルート変えるなんて聞いてないぜ?」
「すみません」
「今日はもう終わりだろ?ちょうど昼時だし、ご飯食べにいこう」
もちろん断ろうとしたけど、ジタンさんは間髪入れずに言った。
「オレがおごるからさ」
「そういう事じゃ…」
「この近くの旨い店って言ったら…」
この人まったく聞いてない。
そのとき、前から男の人がものすごい勢いで走ってきた。
ジタンさんとぶつかりそうになる。
「うおっ、危ねぇ」
ほら、やっぱり。
私と関わるとろくなことがない。
なんだか悲しくなってしまった。
「…いやだな。」
「名前ちゃん、何かあったのか?」
「え、」
しまった、聞こえていたんだろうか。
「だれか、その人捕まえて!」
突然、後ろから悲鳴にも近い声が聞こえた。
振り返れば、女の人が必死に叫んでいた。
次の瞬間、ジタンさんは走り出していた。
跳ねるように、軽やかに。
そして恐ろしいスピードで男の人に追いついた。
「ちょっとお兄さん、その持ってるバック返してもらえるかい?」
男の人の肩をジタンさんが捕らえる、その瞬間。
男の人は急に振り向いて。
その右手には、
私のだいきらいな。
ナイフ、が握られていた。

ナイフ。
ナイフだ。
あの無機質な銀色は、まちがいなくナイフの色だ。
「…あ」
振りかざそうとしている。
ジタンさんに。
「…あぁ」
私と関わったばかりに。
「…ああぁ」
3年前の悲劇が。
私のせいで。
ジタンさん、が…っ!!!!
「…ああああああああっ!!!」
頭が真っ白になって、目の前が真っ黒になる。
もう立っていられなかった。

オレにぶつからんばかりに走ってきたやつはどうやら盗人らしかった。
まぁ、オレも人のこと言えないけど。
3年経ったリンドブルムはなんとか再建してはいるけど、やっぱりこういう事件は減らないんだよな。
一丁捕まえるか。
「…よっと」
その男は足が遅くてすぐ追いついた。
肩を掴もうと手を伸ばす。
「ちょっとお兄さん、その持ってるバック返してもらえるかい? 」
直後。
男はナイフを突きつけてきた。
「…っ!」
すぐに重心を後ろに移動させて避ける。
なんだこいつ。
実際に戦ったことないな。
へっぴり腰じゃないか。
相手が素人ならっ!
振りかざされたナイフを避けて、鳩尾に一撃。
「悪く思わないでくれよ?」
男は綺麗に気絶した。
バックを取り返し、怪我はないかい、と振り返ろうとした瞬間。
「…ああああああああっ!!! 」
叫び声が聞こえた。

「おい、名前ちゃん?!」
今の声は間違いなく名前ちゃんのものだ。
振り返ると震えながらうずくまる名前ちゃんがいた。
「落ち着け、名前ちゃん」
駆け寄って近くに座る。
どうしてこうなった?
何が原因なんだ?
考えてもわからない。
だけど、名前ちゃんは青ざめていて視点が定まっていない。
小刻みに震えながら…まるで、何かに怯えているようだった。
とにかくどこかへ移動しよう。
このままここにいたら野次馬に囲まれる。
オレに助けを求めた女性が駆け寄ってきて言ったお礼をさらっと流してカバンを渡し、名前ちゃんを連れて路地裏に移動した。


Encounter

(偶然なのか必然なのか)





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