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□ゴシック調の恋愛
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風の月7日
最近の暖かい春の日差しのおかげで魔導院の桜は満開になっていた

私はきみと待ち合わせをしている朱雀の噴水の前へと急いだ



噴水に着くと、まだ約束の5分前だというのにきみがいた

「おはよう。ずいぶん早いね」
「おはよう。…5分前行動は当たり前だ」
「まーたそんな堅いこと言って」

鉄のマスクに隠れてほっぺはつっつけないのでかわりに耳をつねる


きみは少しムッとした

「そんなだからいつまでたっても彼女できないんだよ?」
「…余計なお世話だ」

一言の捨てゼリフと共にきみはそっぽをむいた


「それで、用事ってなに?」



「…」
私の質問の答えがかえってこないままそろそろ1分近くたつ

きみは上を向いたり下を向いたり髪をかいたりして落ち着かない

「…その…なんだ」
「??」

「桜、きれいだな」
「は?」

これだけためて桜の話?

「…それだけ?」
もっと重大なことかと思ったのに
なんか心配して損した気がする

「…あ…そうじゃなくてだな」
「うん」

またも訪れる静寂
他の人々の喧騒がやけに大きく聞こえる

長くなるな、と思って噴水の枠に座った私を見て
きみは決心したように私を見た



「名前と会ったのは…一昨年の今頃だったな」
「あ…そうだね。あのときも桜が咲いてた」

私の退屈でたまらなかった人生は
一昨年の桜の花と共に去っていったんだ

きみと、出逢ったから

「あれから2年経つわけだが…ずっと言いたかったことがある」

なに?、と返事をする間もなくきみは言葉を発した


「ずっと、好きだった。付き合ってくれないか」


最初、意味が分からなかった
ただの言葉の羅列にしか思えなかった

だけど…真剣なきみを見て
私もやっと理解した



ただ。
他の人々の喧騒がやけに大きく聞こえるこの場所で

純粋すぎるきみへと送る言葉が見つからない


だから言葉のかわりに、きみに身を寄せてその体に手をまわす

きみの服に顔をうずめると、いい匂いがした


この恋物語にこのBGMは似合わない

そんな気がする
きみに似合うのはきっと…



ゴシック調の恋愛




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