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□五時の魔法
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オレンジの夕日が差し込む放課後の教室に伸びる二つの影

静かな教室に響き渡る筆記音がこだましていた




目の前の積み上げられた課題を見て私は思わず机に突っ伏した

「終わらないーっ…」


今日提出の課題をすっかり忘れていた私は、必死になってノートと向かい合っていた

これを終わらせないと明日隊長のブリザガをくらうことになってしまう


「名前、大丈夫だ。ほら、あと10ページ分」

頭の上から降ってきた優しい声の持ち主はそう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でた


「うん…」

上目づかいで前を見ると


微笑んでいるエースと目があった
私と目が合うとさらに笑顔になる彼

居残りするのは私だけでいいのに
彼は私のために一緒に残ってくれた

そんな彼の優しさが私は大好きだった


ふと彼が時計を見る

「あ…もう5時だ」

「え??」


私も時計を見る
確かに時計は5時を示していた

さっきまで4時だったのに


「…そろそろ休憩するか?」
「うん!!」

私がそう答えると、エースはちょっと待っててくれ、と言って自分の鞄を開いた


そしてなにやらいい匂いのする箱を取り出して机に置く

「それなに?」

思わず聞いた私に返事をする代わりに、彼はいたずらっぽく笑って箱を開く

甘い香りが私の鼻をくすぐった


「わぁっ…!!」

中には綺麗な焼き色のコロコロした小さなスコーンがたくさん入っていた

感嘆の声を上げる私を満足げに見ながら彼はテキパキと水筒を取り出し、紙コップを二つ出して中身を注いだ


上品な香りが紙コップから湯気と共に立ち上る

「よし、まだ温かいな。よかった」

「これは?」
「アールグレイだよ」

「…紅茶?」
「あぁ」

「…食べていい?」
「あぁ。口に合うといいんだけど」


少し照れて頬をかきながら言う彼
その横顔はほんのりピンク色だった


いただきますっ、と勢いよくスコーンに手を伸ばす私

一口食べると、さくっと音をたててほのかな甘さが口いっぱいに広がった


「おいしい!!」

「よかった」


ほかほかの紅茶も一口もらって

「こんなにおいしいの食べれて幸せ」


私がそうもらしたら
彼が微笑みながら言った


「名前がこんなに喜んでくれるなら作ったかいがあるな」

そして今度は真面目な顔で、私を真っ直ぐに見て


「名前が幸せに思うことが僕の幸せだ」


小さな沈黙の後
少しためらいながら

頬を赤く染める彼の唇から言の葉が紡がれる



「名前、大好きだ」

とある日の夕方の物語。




五時の魔法





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