short

□花火の音に紛れて消えた
1ページ/2ページ






先程からじとっとした暑さが私をおそっていた
今夜はことさら人の多いアレクサンドリアの城下町
人々の熱気も手伝っての温度だろう

そう割り切ってはいるが暑いものは暑いわけで
もう待ち合わせの時刻が20分も過ぎているのに一向に現れる気配のない彼への苛立ちが募るばかりだった






今日はアレクサンドリアで夏祭りが開催されていた
街には所狭しと屋台が軒を連ね、喧噪はとどまることを知らないようで

プルート隊が忙しく駆け回っている姿がよく視界に入る


いったいどこで油を売っているのやら、と待ち合わせ相手に想いを馳せる
彼のことだから知り合いに捕まっているのだろうと思うけど…やっぱり遅い
お詫びに何をおごってもらおうか…



「名前!!」


突如背後からかけられた声に振り向いた
そこには、
20分間待ち続けた人物が。


「遅い!!」
「いやぁ、ごめんごめん。おっさんとクイナに捕まっちまって」

片手にリンゴ飴を提げながら言うジタンに私は一喝した


おっさんとはプルート隊の隊長、スタイナーのことだ
部下が働いているというのにジタンにかまうところが彼らしいと思った


ほら、お土産、と言ってリンゴ飴を差し出してくるジタンからそれを受け取る


「…もう一つ、何か買って?」
「ん、もちろんさ」

にっ、と笑うジタンの笑顔
私だけに向けられている、みんなの人気者の笑顔
…20分なんて安いものだ


「行こう、名前」
黄色の尻尾が、ふわりと揺れた






両手を頭の後ろで組みながら歩くジタンの右横でリンゴ飴をほおばりながら歩く
この右スペースは私の特等席だ

「なぁ名前、花火は8時からだっけ??」
「うん」
「それじゃあもう移動し始めないとなぁ」

そう言いながらジタンは私の手をとった
「迷子になるなよ?」


悪戯っぽく笑うジタン
私はいつもこの笑顔は反則だと思う


そしてジタンは私の手を引いて、花火がよく見える広場の方向とは違う道を歩き出す

「こっち、違うんじゃない??」
「いや、こっちであってるぜ」

自信満々に歩き出す彼に手を引かれ、私達は住宅街へ移動する
しばらく歩くと大きな塔の前でジタンは歩を止めた


「ここだ」
「ここ??」
私は訳が分からず首をかしげる
「名前、ここを登るぜ」
「…え??」


塔へ入ると一つの梯子がかけられていた
今にも壊れてしまいそうな、なんとも頼りない梯子だった
てっきりしっかりした階段があるものとばかり思っていた私は驚いた


「…こ、これ登るの??」
「先に登れよ。もし落ちたって、俺が受け止めるからさ」

万事解決、とばかりに笑ってみせる彼に私は苦笑いを漏らす



「あのね、私、スカートなんだけど」





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ