長編

□会いたくて苦しいよ第三章
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あれは俺が近所の剣道大会で初優勝した日。





「一は剣道強くなったね」
「うん」

大会からの帰り道。俺は大会を見に来てくれた姉と歩いていた。


「将来は何になりたいの?」
「もちろん剣道家」
「そっかあ」


あのころの俺の夢は剣道で一番になること。



「一はどんな剣道家になりたいの?」
「もちろん強くて、大切な人を守れる剣道家」
「そっか、強くなるってところは重要だと思うけど、大切な人を守れるって今の世の中じゃ無理かもね」
「なんで?」




俺はあの時素直にそう思った。




「だって、今の世の中は平和だし、日本史でよく出てくる幕末や戦国の時代の武士はいないから。」
「…そう…か」

















その日の夜。
俺は夢を見た。
見知らぬ男が縁側に座って俺を見ている。



お兄ちゃんは誰?



俺の問いにあいつは悲しそうな顔をした。


『一君は…さ』


なんで俺の名前を知っているの?


『強くなりたい?』


うん、もちろん!!強くなって大切な人を守るんだ!!


『…一君さ…あの時の約束覚えてる?』



約束?


『覚えてない?』

ああ、そもそもあんたとは今日初めて会ったのだ約束などしようがない。


『…そう…か』



あの男は今にも消えてしまいそうな笑顔で小さくつぶやいた。




聞いてもいいか?



『なあに?』



お前の名前は?

『      だよ。君の大好きだった』


?何か言ったか?全く聞こえなかったぞ?


『      だよ』


?もう一度言ってくれ、頼む…。


『やっぱり君に伝えるのは無理みたいだね。…過去の君が邪魔でもしてるのかな?』




過去の俺?



『そろそろかな…じゃあね…一君』



おいっどうして俺の名前知って…。



どんどんあの男が薄くなって見えずらくなってくる。



待ってくれ!!俺はまだ何も聞いていないのだぞ!!おい!!


























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