その他

□2月の誓い
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「うえーん、うえーん。怖いよぅ…」

ボクは百目の先祖返り。過去や未来、前世来世から今日の下着の色まで「視えてしまう」普通じゃない子。だから何でも「視える」。綺麗なものも汚いものも。そして、怖いものも。

「また泣いてんの?残夏坊ちゃん」

「うっ…だって、だってぇ…」

「すぐ泣くなんて本当に君男の子なのか?」

「う、ん…」

「ホントかなぁ?」

ボクをからかっているのは使用人の「お兄ちゃん」。生まれてすぐに兄弟と離されたからボクは「お兄ちゃん」が大好きなんだぁ!

「…また怖いの「視えた」の?」

「うん…。怖いお化けが出てきたの…」

「…旦那様…君のお父さんが僕にこれを渡してきたよ」

「お兄ちゃん」はポケットから一枚の布切れ――包帯だ――を取り出した。

「なぁに、これ…?」

「これつけてれば怖いの「視え」なくなるから残夏坊ちゃんに渡しておけ、と仰っていたよ」

「お兄ちゃん」は優しい人だなぁ。

「…何だい…その瞳(め)は…」

「ふふふっ…「お兄ちゃん」、だーい好きっっ!ボク大きくなったら「お兄ちゃん」とおんなじお仕事するっ!」

「君…ならさぁ、SSってのはどうだい?」

「しーくれっとさーびす?」

「ああ。坊ちゃんは先祖返りだから僕と同じことは出来ないけど、大きくなったらSSになるといいよ」

「へぇ…ありがとう、「お兄ちゃん」!」

こんな感じの楽しい生活は続くと思ってた。けど――…。

「…坊、ちゃん…」

今でも憎んでいるこの2月の雨の日。

ボクは純粋な妖怪に襲われた。

それを庇った「お兄ちゃん」が死んだ。

ボクの、

目の前で…。

「あああああああああああああああああ!」

ボクの孤独な闇は、ここから始まった――…。


***


「お兄ちゃん」が死ぬなんて…。

嘘だ…

嘘だ…

「何故泣く?」

「…誰さ」

ボクは「お兄ちゃん」が死んでからは捻くれてしまった。学校にもほとんど行っていない。今日は久しぶりに来てみたのだ。

「私は青鬼院 蜻蛉。貴様の名はなんと言う?」

「…なんだっていいじゃん」

「…変わったやつだな」

蜻蛉とか言う怪しい奴がボクの隣に座った。

「じゃあなんと呼べばいいのだ?」

「…残夏…。残る夏って書いて、残夏」

「残夏…貴様はもしかして、先祖返りの夏目家の者か?」

「だから?」

「そうかそうか。私は鬼の先祖返りだ!まぁ、同じもの同士、仲良くしようじゃないか!!」

彼はボクに「変わっている」と言ったけど、彼のほうが変わっている気がする。

「蜻蛉」は、ボクと同い年(10歳)で、同じ先祖返りだと言う。後は、かなり変わってて、いきなり「肉便器!」とか、「貴様はMだな!」とか言ってくる若干○○○気味の少年だ。

「キミさぁ、大丈夫?」

「何がだ?私は常に正常だぞ?」

「…そうだね…」

ボクは今日、「蜻蛉」の家に来ている。和風な家とは違い、彼の家は洋風だ。

「そういえば、貴様はなんでも視えるのだろう?今は何が視える?」

「…ボク、「お兄ちゃん」が死んでからは何も視えない…いや、視ないようにしているんだ…」

だって、

視えても何も出来ないじゃないか。

あの時はまだ幼かったからいい。

でも、

今は誰かを守れるようにならないと。

SSのことだって、まだ「お兄ちゃん」に詳しく訊いていない。

それよりも、ボクにもなれるかが疑問だけどね。

「…何か隠しているな」

「え?」

「最近一緒に過ごしてきてわかった。貴様は、何か隠し事をしたり、嘘をついているときは必ず顎に手を当てるのだな」

「…気づかなかった…」

「そうだ」

気づかなかったボクの癖。

じゃあ、

ボクは彼といれば元に戻れるのかな…?

「…なんだ、その驚いた顔は」

「ボクは、自分の癖なんか知らなかったからさ。ありがとう」

「…貴様は笑っていたほうがいい」

「え?」

ボクは間抜けな声を上げてしまった。

「…」

「も、もう1度言ってくれなきゃわかんないだろっ!」

「はははははははwwww」

むぅ…

彼は面白いのか…?


***


5年後。

「夏目さん、こんにちは。僕の名前は御狐神双熾です」

「よろしくっ」

かげたんと出会って5年経った。ボクは少しずつではあるが、笑えるようになり、今では昔みたいに(いや少し違うかな?)人と関われるようになった。

「こいつが残夏の言ってたやつかよ」

去年からSSとなって、ボクのご主人様になった渡狸もいるし、毎日は充実してる。

「お兄ちゃん」、

見てくれてるかな?


***


「え、実家(いえ)出るの?」

「ああ」

渡狸がハンバーグを切りながら言った。

「俺は中学行ったら妖館ってとこに入る」

「へぇー」

その「妖館」とは、先祖返りの者たちを守るために作られたものだそうだ。

「なんかよーSSがついてるんだけど、出来たばっかだからいないんだってよ。お前来るか?」

ああ、

「お兄ちゃん」。

ようやくボクも、誰かに仕えて役に立つことが出来るよ…。

「勿論だよ。行かない訳ないじゃん」

雨の降る2月の日。

ボクは渡狸について行き、「妖館」に行くことになった。

そして、今度こそ、

「誰か」の役に立とう――…。

気づけば雨は止んでいた。

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