その他

□好きだから
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グサッ


「…!!?」

邑輝は初め、何が起こっているかわからなかった。しかし、次に左脇腹を冷たく熱い痛みが襲ってきた。

「…つ、都筑さ…ッ…ゲホッ!」


都筑が自分を刺している。そう理解するのに数秒の時間を必要とした。

「…俺の存在がいけなかったんだ…」

そう呟いた都筑の紫水晶の瞳は何も写していない。しかし、その瞳(め)は邑輝をしっかりと写していた。

「…邑輝…」

都筑はナイフを落として邑輝に歩み寄った。そして、痛みに耐える白い悪魔の傍に膝をついた。

「一緒に逝こう…」

「この私と心中してくれるんですか…?」

都筑はこくりと頷いた。

「…ごめん…痛いだろう…?」

「ええ…でも貴方に刺(ころ)されるなら、本望かもしれませんね…」

邑輝は自嘲気味に言った。

「…邑輝…ありがとう…。お前のお陰で、俺は死ねる…」

(お前に捕まって、俺は安堵したんだ…

これで全部『終われる』って――…。)

「フッ、どうやら…私と貴方は同じことを考えているみたいですね…」

都筑は邑輝の体をそっと抱いた。邑輝の体は体温を失い始めていた。

「…邑輝…俺は…お前と、別の世界で生きたい…」

「…私は、自分の為にしか、生きられない…人間ですよ…?」

「…構わない…」

都筑の声は震えていた。

「…だって…邑輝が俺のこと好きって…わかってるから…信じてるから…」

「…そうですね…」

「だから…少し待ってて…。今俺が楽にしてあげるから――…。」

都筑が騰蛇を喚んだ。

密たちが助けに来てくれた。

黒い焔が地下室を包む。

密が都筑を呼び戻し、巽が『影』で2人を取り込んだ。

そして、

邑輝は光に包まれた。

邑輝は生き延びたのだ――…。

***

「邑輝が生きてる…」

自分と死んでくれることはなかった。

しかし、また会える。

都筑は嬉しいようなそうでないような笑みを浮かべた。

2011年8月31日作成

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