その他

□それは恋ではありません??
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※夢主報われない
※パパは瑠火ママラブだから安心して



 その人を見たのは数年前だった。お伽噺でしか聞いたことのない鬼に襲われ、あわや食い殺されるというとき、その人は苛烈な炎を纏って戦った。

「君、大丈夫か」

 後からその人には私と同じ年頃の息子がいると知った。だから絶対に助けなければと思ったらしい。

「……おじさん、ありがとう…わたしは静。おじさんは?」
「煉獄。煉獄槇寿郎だ」
「しん、じゅろうかぁ…」

 どうしてだろう。私はかなり年上の彼に恋をしてしまった。



◆◆◆◆◆



「旦那さま、おかわりをお持ちしました」

 あれから数年。私は奉公という形で煉獄家のお世話になっている…というより、槇寿郎さんのお世話をしている。

「ん」

 槇寿郎さんは政府非公認組織・鬼殺隊の中でも特に強い立場にあった。それがいまやどういう訳か、剣を置き、一日引きこもっている。私がこの家にお世話になるのとほぼ同じ時期に奥様を亡くしたこともあるのだろう。あのとき私を助けてくれたような勇姿が見られないのは残念だが、傍にいられる時間が増えたので不謹慎にも心が踊った。

「……大きなお世話かもしれませんが少しお酒は減らした方がいいかと」
「住み込み女中が俺に意見するのか?」

 ギロリと濁った目が私を睨む。

「そういう訳ではありません、ただ…」
「ただ?」
「……お酒で体を悪くしたら旦那さまのお傍にいられる時間が短くなるなぁと思いまして…」
「……ハァー…全く君は…」

 寝そべっていた槇寿郎さんがのそりと体を起こす。

「……で、いつ私を抱いてくれるんです?」
「何度も言っただろう、俺は君を抱かないと」
「……やっぱりまだ子供っぽいですか?」
「いや、君はずっと子供だろう…そもそも杏寿郎と2歳か3歳しか変わらないだろう? 息子とほぼ同い年の女に手を出せるか」
「……ハッ、もしや熟女のがお好きとか?」
「待て待て、気付きを得たみたいな顔をするな」

 私を鬼から助けてくれたあの日、私は槇寿郎さんに恋をした。優しくて逞しいその姿は獅子のようで、一撃で鬼を殺していた。その姿をもっと見たいと思った私は頑張って情報を集めて鬼殺隊に入ろうとしたが、腕力がないのと女が剣など…という家族の反対に遭って断念した。そこで私は考えた。ない頭で考えた。

「あっ、それならその煉獄さんの家に奉公に行けばいいんじゃない? 家事とか得意だし」

 そう言ってくれたのは母だった。母も昔、好きな男と御近づきになるために奉公に行き、見事父を手に入れ子宝にも恵まれた剛の者だ(まぁそのせいで父は勘当され、今や貧乏長屋暮らしだが)。

 お母さん最高!と膝を打った私はその日中に煉獄家の門を叩いた。何でもするからここで働かせてください、なんなら給料もいりませんなどと必死にお願いしたところ、当時病に臥せっていた奥様である瑠火さんが「まぁ人手はあった方がいいですし」、とお許しを得て働けることになった。

(あぁっ、奥様ごめんなさい…私、貴女の亭主で私の雇い主に恋してるんです…!)

 優しく迎えてくれた煉獄家の皆さんに対し、心が痛まない訳じゃない。でも、好きになったのは仕方無いじゃないか!

「うーん…じゃあ何ならしてくれるんですか?」
「なにもしない。君には俺みたいな親父よりもっと年の近い男と…」
「すみませんが私は35歳以上の既婚者か未亡人にしか興味がなくて…」
「まさか君、不貞の趣味があるのか?」
「滅相もない! ところで抱いてくれないなら槇寿郎さんの槇寿郎さんを見せて頂けませんか?」
「しれっと名前で呼ぶな! あと嫁入り前の娘が破廉恥なことを口にするな!」

 酒とはまた別の意味で顔を赤らめた槇寿郎さん…あああああ最高だなぁ…。

「じゃあ譲歩して先っぽだけ…」
「譲歩してないだろう、それは! 大体なんだ君は! 俺をからかっているのか!」

 槇寿郎さんの大きな声が響く。驚いて声が出なくなる。行灯の火がジリジリと芯を焦がす音と槇寿郎さんの呼吸だけが聞こえる。

「……ッ、済まない…大声を出した」
「あ、ぅ、うん…」
「君は俺が好きだと言うが、それは多分君が思うようなものではない。よくあるのだ、鬼に襲われ命の危険に晒された被害者が助けに入った隊士に惚れるということが」

 それに、君はまだ子供だから、と槇寿郎さんは頭を掻いた。

「恋と愛、それから憧れや恩義の気持ちの違いがわからないんだろう」
「……なんでそんなこと言うんですか」
「なに?」
「なんでそんなこと、っ…言うんですか!」

 思わず槇寿郎さんの傍に寄り、胸を叩く。

「私はっ…ずっと本気なのに…ッ。槇寿郎さんが命を賭して戦うのを見て、かっこいいとか…綺麗だとか思って…もっと見たいと思って…っ、うっ…うっ…」

 涙が溢れて上手く言葉が紡げない。槇寿郎さんは何も言わなかった。

「………仮に、仮にだ。君のその気持ちが本当に恋で、俺も奇跡的に君のことがそういう意味で好いと思ったととして、」槇寿郎さんが私の腕を掴み、押し倒す。「……こういうこともあるとわかっているのか?」

 低い声に酒精の混じった息が熱く私の首元に掛かる。その首元をするりと撫で、胸から下腹部をなぞってめくれた裾から覗く太ももに大きな手が添えられる。

「……わかってます。伊達や酔狂で言ってるんじゃないんです」

 すんすん、と鼻を鳴らしながらこれ以上泣かないように努める。

「……槇寿郎さんが奥様一筋なのもわかってるし、父親と変わらない年の貴方に恋をしているのがおかしいのもわかってます…でも…好きになったのは仕方無いじゃないですか…っ」

 そう言うと槇寿郎さんははっとした顔をして、私の体から退いた。それから先程運んできた酒を御猪口に注いで飲み始めた。

「………無体を働いて悪かった。今日はもう休め」
「は、はい…」

 乱れた着衣を整え、失礼しますと部屋を出ていく。槇寿郎さんは背を向けていてその表情はわからなかった。

「お、静か」
「あ…杏寿郎さん」

 槇寿郎さんの息子で鬼殺隊の炎柱・杏寿郎さんが部屋の外にいた。

「お戻りでしたか、すみません…すぐ食事を…!」
「いや、今日は任務の後に外で食べてきたから大丈夫だ」
「そうでしたか。ではお風呂の支度をしますね」
「あぁ! 俺も手伝おう!」

 杏寿郎さんは槇寿郎さんの息子なだけあって見た目はよく似ている(というより、煉獄家は生まれる前にある儀式を施すことで皆このような見た目になるらしい)。だから、若い頃の槇寿郎さんはこうだったのかなぁと勝手に杏寿郎さんやその弟の千寿郎さんを見て勝手にときめいてしまうことがあるがそれは秘密だ。

「また父上に泣かされたか」
「……もしかして、聞いてましたか…すみません、お父上に失礼を…」
「気にするな。君が父上に想いを寄せているのは、最初から気付いていた」

 浴槽に張られたお湯の水面に、腫れた目の自分が映りこむ。息子である杏寿郎さんからすれば私は後妻を狙う不届き者にしか見えないだろうに、こうして優しくしてくれる。

「……ただ、道は険しいと思うぞ!」
「ですよねぇ…」
「だが、あれでも父は心を開いている方だ」
「え?」
「俺や千寿郎が声を掛けても無視か物を投げるかしかしないのに、君だけは部屋の中でお喋りすることを許している」
「……それ、単に私が女だから手を上げないだけとかではない?」
「まぁそれもあるだろうな!」

 杏寿郎さんが快活に笑う。

「俺は君に期待しているんだ。塞ぎ込んでた父上を少しでも元気にしてくる君は、きっと元の父上を喚んでくれると!」
「……杏寿郎さん…」










 …――厠に行こうと部屋を出たとき、静と杏寿郎が話し込んでいた。「だが、あれでも父上は心を開いている方だ」…杏寿郎の言葉が嫌に耳に残る。

(……そうだ、君は杏寿郎くらいの年の男とよろしくやってるのが一番だ)

 用を足し、部屋で再び酒を飲む。

(………だが、何故だろうな。静が杏寿郎と話しているのを見たらむかついてきたな…)

 その理由は、きっと一生わからないだろう。





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槇寿郎パパにガチ恋してるの静と、静の気持ちを知った上で突き放してるのにちょっと嫉妬する槇寿郎パパ

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