Short Story
□Rainy day
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貴方と一緒に過ごす為の口実になるならば
突然の雨も結構良いかもしれない
Rainy day
「反則だな、この雨」
濡れた髪から雫を滴らせながら、修兵は私にタオルを投げた。
それをキャッチした私は、同じく髪から滴り落ちてくる雫を拭き取る。
突然のスコールですっかり全身に水をかぶってしまった私たちは、あえなくデートを中断して修兵の家にやって来たのだけれど。
「やっぱ、でかいな」
修兵に借りた死覇装を私が引きずっているのを見て、彼は苦笑した。
なんせ修兵との体格差は歴然としているもので、袖やら裾やら私の末端は全く見えなくなってしまっているのである。
まるで、小さな子供がおままごとをする為にお母さんのエプロン着けちゃったみたいな、そんな感じ。
「後で洗濯して返すね」
「構わん。そこら辺に投げておけばいい」
首にタオルをかけて上半身だけ肌を出した修兵は、着替え終わった死覇装を床に投げた。
洗濯するの、どっちみち私なんだけどなあ。
別に面倒臭いわけじゃないけど、そこに気が付かない修兵に私も苦笑した。
「せっかくの非番なのに残念だね」
「まあ、スコールだし…そのうち止むだろう。
雨が止むまで此処にいるといい」
今度は少し大きめのタオルを持ってきた修兵は、私を足の間に挟むようにしてそれを頭に被せた。
修兵の重みで、ベッドのスプリングが軋みをあげる。
「しっかり髪乾かせよ」
そのままの態勢で修兵も再び髪を乾かし始めたのだが、この至近距離に私の心臓が高鳴る。
なんて言うか…、
修兵ってこんなに扇情的な表情するっけ?
髪から滴る雫とか、軽く伏せられた切れ長の目だとか。
長い間一緒に居たのに、こんな修兵の一面に気が付いたのは初めてだ。
「おい、」
「あ、え?なに?」
「髪乾かせって言ったのに…まだ濡れてる。
風邪ひくだろ」
先ほどからの視線に気が付いたのか、修兵はまだ濡れている私の髪を見て呆れたように溜息を吐いた。
「ごめん」
視線を外して目を床に伏せると、修兵は私の頭に掛けられたままだったタオルで髪を拭った。
強すぎず、でもしっかりと水分を拭き取りながら、修兵は頬に張り付いた髪を私の耳にかけながら口角を上げる。
「まあ…、それはそれですごくそそるけど」
普段はあまり見せない悪戯な笑顔を覗かせて、唇に軽く触れるだけのキスをした。
首筋に当たる修兵の手が、ひんやりと冷たくて気持ちいい。
ぴくりと反応した私を見て、修兵は私の首筋に顔をうずめる。
チクリとした痛みが走って、紅い華を咲かせたのだろうと理解した。
「今晩泊まっていけよ」
「雨が止むまでじゃなかったの?」
「俺、このままお前を帰せそうにない」
今度は鎖骨にピリリとした痛みが走って、ゆっくりと世界が反転した。
私を上から見下ろしている修兵は、いつもより扇情的な瞳で私を映し出す。
余裕を無くしている修兵を見ることができるのは、たぶん私だけ。
修兵の頭を引き寄せてキスをひとつ贈ってから、息のかかる距離で尋ねた。
「選択の余地は?」
「ナイ」
貴方と一夜過ごせるなら
突然の雨も
結構良いかもしれない
2006.07.31.