拍手用本棚

□オオカミな奴五題
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「それおっさんに持ってくなら一緒にこれも持ってけば喜ぶと思うぜ」


書簡を抱えて歩く彼女を止めて、同じように持っていた書簡をぽんと渡す。


「甘寧殿…」
「うおっ!?いたのかよ陸遜!?」
「いい加減に彼女に貴方の仕事を押付けるのはやめて下さい」


以前、甘寧殿の仕事補佐を担当していた彼女は、担当から外れた今でも甘寧殿の言う事をよく聞く。
もちろんそれは仕事以外の事の些細な事でも、甘寧殿が言う全てを彼女は疑う事なく信じてしまうのだ。


「この前もその前も、自分でやったといくら言っても彼女と貴方の字体が違うんですから」
「だって面倒なんだもんよぉ」
「良いんです陸遜様」
「ほら!本人が良いって言ってるんだからいいじゃねーか!」


甘寧殿がしてやったりな笑みを向けてくるので私は溜息を吐いて彼女に顔を向ける。


「一応日々のこういう仕事も、いざという時に必要なんですからあまり甘やかさないでくださいね」
「すみません…」
「仕事以外についてももう担当は外れているんですから、貴女は断るというものを覚えてくださいね」


頼まれれば全て、はいの一つ返事で受け入れる素直な彼女は誰からも愛されている存在で。
だからこそ皆で甘寧殿の毒牙にかかって欲しくないと切に願っていたりする。
酒盛りするから一緒に来いと言われれば男だらけの場所にだって彼女は行くし、付き合えと言われれば夜の散歩にだって行く。
分かりやすい甘寧殿の行動、周りから見たそれは今か今かと獲物を隣に置いて舌をなめずりする狼そのもの。


「でも陸遜様、私、甘寧様に頼まれたりするとどうしても…」
「私に言ってくれれば対処してあげますから」
「なんだと!?」
「いえ、そうではなくて…」





2.赤ずきんのあなたへ
(無双/甘寧)





「甘寧様が嬉しそうにする姿を見るのが好きで、つい」


駄目だとどんなに言われても、危ないからねと言われても。
全てを信じて、行動して、そうして側で笑ってくれるそれを見たら嬉しくて次こそ拒むなんて選択はやっぱりなくなってしまって。
ふわりと笑うそれにぽかんと口が開いたままになってしまった。
少し恥ずかしそうに頭を垂れてこの場を後にして行く彼女の背から、隣に視線を向けてみれば同じようにまぬけに口を開けたまま固まっているようで。


「貴方がへたれた狼で良かったですよ」
「なっ…へたれじゃねえ!」


瞬時、火を噴きそうに顔を真っ赤に染め上げ、本来なら先回りするはずの狼は小さくなって行くその背を追いかけ始めた。
ああ、この話を他の人にしたら猟師は一体何人になるんでしょう…



 
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