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□オオカミな奴五題
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忘年会万歳!
会社で憧れの小十郎さんと一緒に飲みに行く事になった私は浮かれに浮かれていた。
もちろん二人きりとかじゃなくて皆一緒だけれど、同じ空間にいられるっていうだけで私は嬉しくてたまらなかった。


「小十郎さんの隣、行かなくていいの?」
「いいの、見てるだけで十分しあわせ」


私の気持ちを知ってる同僚がそう言ってくれたけど、本当にそれだけで幸せだった。
女の子同士で固まって恋の話をしたり、秘密の社内事情を話したり、美味しいものを食べながら美味しいお酒を飲みながら皆でワイワイするそれらは本当に楽しくて気がつけばいつもよりも飲みすぎてしまっていた。
ふらつく足元、ドンと人とぶつかり鼻を押さえながら見上げれば政宗くんだった。


「Are you Okey?」
「んーだいじょぶ、ごめんねぶつかっちゃって」


二次会に行くらしい政宗くんは私の覚束ない足元を心配してくれたけれど、一人で帰れるからと笑顔で手を振って帰宅組と一緒に駅に向かう。
ここから家まで2駅程、私は人込みの改札でやっぱり歩いて帰ろうと皆を見送ってから駅を出た。
ゆっくり歩きながら今日たくさん見た小十郎さんの顔を思い出す。
料理の取り分けとかやってたり、勧められたお酒を困った顔をしながらもちゃんと飲んでたり。
思い出すだけで私は幸せで、かっこ良かったなぁなんて口元を緩めて鼻歌を歌ってみたりして。


「おい」


振り返れば眉を顰めた小十郎さんがいた。
いつも紳士な小十郎さんだけど、仲の良い同僚にはたまにこうやって砕けた口調で話をしたりするのをこの前知った。
そういう小十郎さんもカッコイイんだよなぁ、鼻歌をそのままにもう一度家までの道に足を進める。
ふわふわ浮いてるような感覚の中、小十郎さんと一緒に帰る事になった幻想を浮かべながら歩くのも楽しい。
音の外れた鼻歌にも文句も特に言わないで、横にいる姿に見上げて笑ってみればそっと手を握られて、暗い夜道をそのまま二人で歩く。
部屋の鍵を取り出して扉を開けて、真っ暗な玄関に入れば足がもつれて転んでしまった。


「お、」
「ほんと酔い過ぎだなぁ私、小十郎さんに送ってもらう夢見ながら帰ってくるなんて」


まだふわふわしたまま、おかしくてクスクス笑う。




1.狼は嫌いですか
(BASARA/小十郎)





「小十郎さんが送り狼とか、それもカッコイイだろうなぁ」


クスクス、冷たいフローリングの廊下が心地良いのか頬をぺたりとつけたまま目を瞑ってしまった。
花の咲くような、甘い笑みを浮かべるのに見とれて、恋に落ちたのは随分と前の事。
それでもどちらかと言えば共に話は聞き手側、接点をうまく作れなくてあまり会話を交わした事はない。
今日こそはと忘年会に望んだものの上手く行かず目で追っていれば、いつもより早いペースで酒を飲んでる姿。
二次会を断って後をついて来てみれば聞こえてきた鼻歌。


「まさか夢だと思われてるとは…」


始終幸せそうに笑って、楽しそうに歩いて、繋いだ手を揺らして。
玄関のドアを閉めて顔を覗きこんでみれば幸せそうに笑って眠る姿に、格好良いとは言われても狼になんてなれないだろうと、未だ繋いだぬくもりの残る手で熱を帯びる自分の顔を覆った。




 
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